98字日記ー2020年11月

11月30日(月)
シャンシャンは笹の山の中に座り、その一本を手で取ると歯ですいすいと葉をしごき、いくつか溜まると掌で同じ長さに見事に束ねて持ち直し、葉先からまとめてムシャムシャと食べる。上野の新しいパンダの森で。

11月29日(日)
新明解国語辞典第八版を買った。9年振りの全面改定に敬意を表して。1972年の初版以来、赤表紙を使っていたけれど今回は表紙の金色の文字が美しい青版を手元に置く。辞書としては広辞苑を使い、これは読むため。

11月28日(土)
しょうもない繰り言を友人が聞いてくれるおかげで私は立ち直ってきた。悔いや寂しさや哀しさがすっかり消えることはないだろうけれど、これまで生きてきたように生きていこうと思う。いろいろ失敗を重ねながら。

11月27日(金)
2、3ヵ月に一度、つがわ歯科で歯の全体をみて洗浄してもらうのは安心。インプラントは生来の歯のように自然でよかったけれど、もうあれだけ長時間の治療に耐えることはできないと思うので、あとの歯を大切に。

11月26日(木)
コロナ禍で、ひとの姿が少ない街なかに、暮のイルミネーションが灯りはじめた。新宿住友ビルも改築後初めてのライティング。暗くなると大きなガラス扉にツリーが映って外にツリーがあるのかと思ってしまった。

11月25日(水)
三島由紀夫が世を去って、今日で50年だという。アメリカから彼が手紙で聞いてきたーーMishima  って誰?漢字でないと分からない、人の名前。電話すらかけづらく手紙しかなかった時代。50年は、やっぱり長い。

11月24日(火)
最近の私流行・納豆トッピング編=①揚げたま②じゃこ、大根おろし③胡麻油、刻みカシューナッツ④人参の千切り⑤アボカド、山葵⑥アスパラガスのバター炒め、チーズ。以上、納豆は金のつぶ・たまご醤油たれ。

11月23日(月・祝)
最近の私流行=(1)アボカドのスライス、生ハムか薄いロースハム、カッテージチーズ、砕いたナッツ、ハニー (2)アボカド、パテ屋さんのレバーパテ、牡蠣醤油(3)ベーコンのかりかり焼き、茄子のソテー、アボカド

11月22日(日)
秋の空に母を想う。亡くなった時、人生にそれほど辛い悲しみがあることを初めて知った。昼間、編集の現場にいる間は紛らわせても、家では涙が止まらなかった。そこから抜けるのにどれだけの月日が必要だったのか。

11月21日(土)
土曜日のメトロ。立っている人は少ないながら席は埋まっていた。優先席も三つは若い夫婦と子どもで、後の五つは若者と中年で、占められている。そんなに端が好きなら車両中央部分の長い席を全部優先席にすれば?

11月20日(金)
ディケンズの『クリスマス・キャロル』抜粋を課題にした。19世紀の英語も生活背景も面白い。初の邦訳は1926年、あの森田草平によるものらしい。東大英文科で夏目漱石に師事し、後に平塚らいてうと心中未遂・・・

11月19日(木)
カルチャーの帰りにどこへ寄ろうかと朝は考える。展覧会をチェックしておく。でも、まずはバッグが重い。やっぱり家に帰ろうと思う。全勝の貴景勝を一敗にした翔猿はどうかしら。栃ノ心には勝ちこしてほしい。

11月18日(水)
ガガこと臥牙丸が引退した。このところ6場所くらい休んでいて心配だった。15年前から土俵にあがり、膝の怪我を克服できなかったらしい。200キロではね。ジョージア大使館主催のパーティーで会ったことがある。

11月17日(火)
認知症気味らしい。健診で、こう認めたからーー人の名前を思い出せない、持っている物をまた買う、昨日の夕食に何を食べたか忘れた、今日の日付をすぐ言えない、何を探していたか忘れる。ずっと、そうなのに。

11月16日(月)
銀座メゾンエルメスで昨日みた「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」のパンフレットを今朝ゆっくり読む。動物が体内に抱えこむ結石は抵抗の悲しみの塊。もう一度みよう。美しい馬たちの写真も瓢箪も。

11月15日(日)
地球環境を救うために出来ることを実現している人達を世界数カ国にわたって追った力強く明るいドキュメンタリー映画『Tomorrow パーマネントライフを探して』をル・ステュディオで観る。世界は変る?or 滅亡?

11月14日(土)
朝5時過ぎ、1954年の伊映画『ユリシーズ』のBS放映に気付いた。例のホメロス原作。俳優がカーク・ダグラス、シルバーナ・マンガーノ、アンソニー・クイン・・超面白いのに字幕を読むほど目が冴えず、またね。

11月13日(金)
街で道で、建物や乗り物の中で、マスクをしていない人はほぼいない。しかもマスク、眼鏡、帽子と揃うと余程よく知っている人でないと見分けがつかない。新たに人と知り合うことが難しいのではないかと思う、今。

11月12日(木)
QRコードが目立つ。テレビ画面にまで現れる。新聞の広告面にも多く、予約が必要なイベントは、これで申し込むのが楽。でも、いいのかしら。大切な情報まで「詳細はここで」となると受け取れない人も多いはず。

11月11日(水)
今秋はじめて白いカシミヤのタートルネックを着た。朝、清新町の中は枯葉でいっぱい。いつの間にか葡萄酒色やカステラ色になっている木々の葉を仰ぐ。カマラ・ハリスさんはいつもコンバースを履いているそうだ。

11月10日(火)
近くのマルエツスーパーにネットで注文して、今日のセールから重いものをいろいろ届けてもらう。アボカド、種なし柿、胡瓜、などどれも一つ94円。卵やヨーグルトも一緒に。階段を上がってくれて、ありがとう。

11月9日(月)
目覚めに村上春樹訳の短編集『恋しくて』からトバイアス・ウルフ「二人の少年と、一人の少女」を読む。6年前にウルフの”Powder”を課題にして、クラスでの多くの読後感が私と違っていたのが今も気になっている。

11月8日(日)
急に暖房が欲しくなった。勝どきから不意にタクシーで浜離宮庭園にコスモスを見に行ったのは1週間前だったかしら。民主党のジョー・バイデン米大統領、カマラ・ハリス副大統領(女性初)が誕生しそうでよかった。

11月7日(土)
ジョージア語の練習問題をしていると気持ちが落ち着く。「もしタイムマシンがあったら」→接続法現在は基本的に事実ではない現在の事態をあらわす。ムラのある私は集中してやるときと、数週間やらないときと。

11月6日(金)
オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー。Mと日本橋で待ち合わせ、18世紀後半に仏の魔術師が生んだ香水をお互いに贈ることにする。ルーブル美術館とのコラボによる「ミロのヴィーナス」を私は選んだ。嬉しい。

11月5日(木)
文化功労者にも年間10億円近い予算が当てられていて、リストを見れば、功成り名遂げてお金はすでに十分ありそうな人が多い。厚労省によれば7人に一人が貧困にある子どもたちのために使えるお金はあちこちにある。

11月4日(水)
たくさん移動し、たくさん歩いた。横浜から上野(JRで近い!これからは帰りに美術館に寄る)、公園口から精養軒まで迷い歩き、後で精養軒から上野御徒町駅まで。いつもはタクシーに乗るところを歩いた、何故か。

11月3日(火・祝)
高橋悠治コンサート、副題は「修羅の子供たち」、三軒茶屋で。30人ほどで聴く贅沢な時間。佐賀町スペース、アートシアターなどに育まれた私達に今も本物を示してくれる稀有な存在と林のり子さんと終演後に。

11月2日(月)
池澤夏樹の小説のなかで練習艦が真珠港に入る。「真珠港、パールハーバー。後にわたしたちが用いた名で呼べば真珠湾である。」軍港であるにしても、攻撃したのが湾と港とでは印象がずいぶん違う。言葉は重い。

11月1日(日)
「お寺に、実際に足を運び、できたらお堂のなかに入り、参拝してみたらいかがかと思う。すると、知識として知るお寺のなかで、仏さまと出会い、心が洗い清められる思いになる。それが仏教に親しみを懐く第一歩である。」(廣澤隆之『仏像とお寺のなるほど読本』から)