98字日記ー2023年3月

3月31日(金)
英映画『生きる Living』の初日で、日比谷へ。カズオ・イシグロの脚本による黒澤明作品のリメイク。主人公のビル・ナイもよかったし、とにかく話の運びが洗練されていた。唄はスコットランド民謡「ナナカマドの木」。

3月30日(木)
『ぼのぼの』は1980年代に出た第一巻から、ことあるごとに推していた。なのにいつの間にか離れ、47巻が出たのを知らなかった。いがらしみきおの朝日への寄稿「我々はなにを失いつづけているのか」に共感する。

3月29日(水)
コロナ禍に見舞われて少なくとも3年は人と会うことを極力すくなくしていたのだから、章枝さんとももしかすると5年以上ぶりだったのだろうか。話し始めれば、間隙はあっという間に埋まって。べイシェラトンのロビーで。

3月28日(火)
『丘の上の本屋さん』は原題が 『幸せの権利』。映画冒頭に置かれたC・サフォンの言葉は「持ち主がかわるたびに本は力を得る」という『風の影』の中の父親から息子への言葉。せめて『・・の古書店』だとよかったのに。

3月27日(月)
ここに書いておきたいと思うことがあって、日付を入れているうちに、それが何だったのか忘れてしまって、どうしても思い出せない。ちょっと素敵なことだったのだ。これが認知症の始まりなのかどうか分からないけれど。

3月26日(日)
昨日のぼんやりの中で手に取ったのは(やっぱり本棚に目がいく)寺山修司編著『日本童謡集』。200ほどの”童謡”は楽譜付き、全歌詞付。「まえがき」はもとより深沢七郎、藤本義一、多田道太郎の短いコメントが、文学。

3月25日(土)
北側の窓の斜め前に立つ枝垂れ桜の濃いピンクが、すっかり雨に濡れそぼった。すべてが柔らかく静まり返っていて、読書に最適の日。でも本は騒音の中ででも読める。こういう時こそ、いつもにまして、ぼんやりと過ごす。

3月24日(金)
数年前から、3月がお命日となった友人がなんと多いことか。満開の桜は華やかであればあるほど静かで想いや思いを深める。この週末の東京は雨の模様。3月の雨は冷たい。好きな青いレインコートを着て出かけることにする。

3月23日(木)
高校野球でもwbcでも見ていて、男の子にはそこに到達するまで、あるいは到達してからも、社会的に育てられていく強力な場があり膨大な金銭も注がれていることを思う。女の子には、これだけ集中的に育てられる状況はない。

3月22日(水)
バスの窓から見ると、あっちにもこっちにも白い花をふわっと広げた桜の木がいる。つい数日前まで黒ずんだ木枝でしかなかったのに、とつぜん静かで華やかな空間を造りあげたのね。5本も並ぶと豪華!でも1本がいい。

3月21日(火)
ホームランを打つだけが能じゃない。それをまざまざと見せてくれたのがwbc準決勝メキシコ戦での9回裏、大谷翔平の2塁打だった。すごい逆転劇だった。野球? それほど興味ありません、なんて言っている私が夢中でみていた。

3月20日(月)
伊映画『丘の上の本屋さん』をみる。小さな古書店の主人リベロ、隣のカフェで働く青年、移民の少年エシエン・・本を介して人が触れ合う。冒頭にサフォンの『風の影』の一節が刻まれていたのが思いがけなく、心躍った。

3月19日(日)
荘村清志、福田進一、鈴木大介、大萩康司の4人が組み変わって聴かせるギターデュオの世界に浸る。ただ二人並んで弾くシンプルなステージ。初めて聴いたファジル・サイの『リキアの王女』がすてきだった。区文化センターで。

3月18日(土)
久しぶりの雨。空気も冷たい。3月は、こういう月。このまま夏になるのではないかと思わせておいて、突然はだを刺す空気が渦を巻く。雪が降ったこともあった。注文しておいた印鑑ができてきた。「寿限無ジュゲム・・・」

3月17日(金)
都の上野公園や井の頭公園で花見どきに宴会ができることになった。3年、自粛してきてマスク着用が個人の判断になり、4年ぶりにお酒やお弁当が広げられるという。でも都での新規感染者は今日も700人近く。本当に大丈夫?

3月16日(木)
2018年4月3日(日本4日)、大谷翔平はメジャーリーグで第一号ホームランを打った。颯爽と一周してダグアウトに戻った時のチャーミングな振舞いをネットで何回見たことか。東京でのWBC最後の伊戦ではバントで魅せた!

3月15日(水)
ビルケンシュトックの靴が10%引きで買えると美礼が注文してくれた新しいのを履きはじめた。いつも同じ黒のボストン。前のは気がついたら底が擦り減ってツルツルになっていた。白いのは、まだ健在。サンダルは2足ある。

3月14日(火)
大江健三郎回顧が始まる。ネットで『人民中国』日本語版のサイトで見た1960年、84年、2000年の中国訪問の記事がよかった。中国文学に傾倒していた母上から幼い頃サンランと呼ばれていた謎が中国でみた芝居で解けた話も。

3月13日(月)
大江健三郎さんが3日に亡くなられていた。60年代に講演のことで幾度かお会いした。翻訳をどう考えるか多くを教えられた。8回あった大江賞は英仏独語のいずれかに訳すことを授賞とするなど、翻訳を大切にする作家だった。

3月12日(日)
ブルーチーズに心満ち足りていない。普通に買えたデンマーク製が消えてから、どれもつまらない。千葉の高秀牧場から取り寄せたのはチーズが新鮮で素晴らしいけれどブルーが弱すぎ。そうだ、『河童のスケッチブック』。

3月11日(土)
鎮魂の日にミューザ川崎でのチャリティーコンサートへ。14:45 に黙祷と共に始まる。新実徳英作曲の交響組曲『生命のうた』オケ版初演を聴きたかった。ヒクメットの激しい詩を合唱にして心に突き刺さる新しい知的な音・・!

3月10日(金)
何年ぶりかで送られてきた福田さん手作りの金柑ジャム。ご自宅の木に実った一つひとつから種をとって刻んで煮る・・・らしい。定年後の男性の趣味として見上げたもの、と長年、その美味をただ楽しませてもらっていた。

3月9日(木)
キューバがテーマの課題を全クラスで終わる。キューバ通アメリカ人の視点での紀行文は読みにくさを越えて、あまり触れない言葉を次々と投げかけてくれた。海が65%の「西半球」を知らなかった人も多かったようだ。

3月8日(水)
平綿さんが撮ってくれた、黄色のミモザと青紫のローズマリー、笠井久子さんからはクリスマスローズと椿と水仙。土も写っているのが温かい。自分には何もないと言う佐久の友人に伝えよう。あなたの育てている花を見せて。

3月7日(火)
ペーパーワークが多く、数日、家に閉じこもっていたら、どんどん気分が沈んでいった。どこかに行くほどの時間もなく、とにかく勝どきへ。青い空を見上げるだけでも、心が開く。隅田川の流れもキラキラと春色だった。

3月6日(月)
今朝のオピニオン頁は全てが心に響き、畳んでしまえない。残酷な障害者の逸失利益、元に戻らないよう今こそ羅針盤を、通信制高校生の通学割引終了に、震災後の孤独、岡本知高さんの歌声、中国全人代、ウクライナ語。

3月5日(日)
区からのメールによる注意報はいろいろある。強風や雷、詐欺電話、不審者・・。認知症行方不明者を見つける依頼もある。家族からおおよその服装が示される。数時間後に発見の知らせが入ると、ああ、よかったと思う。

3月4日(土)
WBCが9日に始まるので大谷翔平もチャーター便‼︎ で日本に到着。野球は男社会だけれど女性の解説者が現れてくれないだろうか。冷静、明朗、賢明で、綺麗な落ち着いた声で爽やかに解説してくれたら、どんなに素敵だろう。

3月3日(金)
お雛様は納戸に仕舞われたまま。飾って、3日を過ぎたら直ぐ「片付けない」と女の子が「嫁かない」と言われ、それを守っていたけれど、娘には信頼できるパートナーがいて10年を越す。言葉にも関係あると今、気がついた。

3月2日(木)
きのうは何年ぶりかで竹葉亭で食事をした。美礼との間のアクリル板をどけてもらい、温かい卵焼きを食べながら待って、うな重と肝吸いだけ。そのあと銀座の広い蔦屋を歩きまわる。やはりエゴン・シーレを特集していた。

3月1日(水)
“It’s okay/If you’re lost, we’re all a little lost and it’s alright /It’s alright /I drove through yellow lights and don’t look back at all /It’s okay It’s okay・・・” (Nightbirde=ジェイン・マルチェフスキ 『It’s Okay』から)