98字日記ー2012年11月

11月30日(金) 

機会があれば初演を大切に聴く。百年前の東欧や現代の日本の作曲家。今日は新実徳英≪トランペット・ソナタ≫暗き森にて(AE18)が素敵だった。2楽章で「哀」「やがて」が私の印象。ピアノ部分も厚くて綺麗だった。

11月29日(木) 

一日を振り返って一番大切だった出来事はここには書かない。出来事ではなく心に響いたことを記していて、それは人にはどうでもいいことばかりだと思う。だからこういう心の発露は友人を失う事だと実感している。

11月28日(水) 

間隙をぬって例年の高島屋チャリティーのサンタクロースを取得しに・・・レイモンド・ブリッグズ作のファーザークリスマス。『さむがりやのサンタ』『風が吹くとき』『Ethel & Ernest』は我が家の歴史とともにある。

11月27日(火) 

昨夕は激しい雨の中、安倍自民党総裁が西葛西駅前に応援演説で現れ、バス停のある歩道を人でぎゅう詰めにした。SPや取材陣の方が多く、学校帰りの中学生が泣きそうに。雨の中でやれ!と怒号もとび、選挙狂想曲。

11月26日(月)

よく眺める栞にブレーメンの音楽隊が和紙に型染めされたものがある。実際に使うのは、たとえば、ロンドンのナショナル・ギャラリー製で薄い磁石が裏についた2片でページをはさむようになっているモネの絵の栞。

11月25日(日) 

そして今日は上野の小ホールで高橋悠治×古澤巌。悠治さんの紹介付きシューマン「子供の情景」が心地よかった。無伴奏ヴァイオリンで「七つのバラがやぶに咲く」も久しぶりに聴く。上野駅周辺が整ってきて嬉しい。

11月24日(土)

グルジアの作曲家たちによる20世紀後半の作品を生演奏で聴くという稀有な時間——ワツァゼ、ツインツァゼ、アザラシヴィリ、カンチェリ。ギア・カンチェリの弦楽四重奏曲「夜の祈り」をいつかフルで聴きたい。

 11月23日(金) 

小川洋子の書き下ろし『ことり』に読みふける。奥付では30日発刊だけれど、すでに。兄弟もポーポー語もブローチもあり得ないようでいて、存在が実感できる。いつもなんという世界を創ってくれる作家なのだろう。

11月22日(木)

サンクトペテルブルクの紀行文を訳しているクラスで、ふと自分が生まれたときの内祝の話をした。大連から送ったロシアのチョコレートの箱詰は本当に綺麗だったという。どの国もそれぞれ誇る美を示せる時代はくる?

11月21日(水) 

翻訳の添削に予想外に時間がかかると焦る。明日の20数人分が、数日かけていても終わらない。でも一人ひとりと話しているようなものだから賑やかな時間でもある。返事のこない便りを書いているようでもあるけれど。

11月20日(火)

「そんなこと、だいじょうぶなんだよ、きみ!もうそんなことを考えるのは、よしたまえよ」(ケネス・グレーアム作、石井桃子訳『たのしい川べ』から)。そう言ってあげたいときがある。言ってもらいたいときもある。

11月19日(月)

朝の番組でピアフの「ラ・ヴィアン・ローズ」を歌やクラリネットなどいろいろな音で聴く。昔、荻窪に30年代の女性ヴォーカルだけ流している喫茶店があり、毎日来たい、自分でも集めようと思いつつ何も果たさず。

11月18日(日)

衆議院解散、そして12月16日に衆院選投開票、さらに都知事選と、騒がしい年末になりそう。原発をどうするのか、しっかりと見ていく。東日本大震災被災地の支援についても納得のいく姿勢をどこが打ち出すか。

11月17日(土)

夕方4時47分に外は真っ暗。天気がわるいからとはいえ、明るい時間が少なすぎ。朝5時47分(本当に、時計を見たときそうだった)にも外は暗かった。柔らかい光の電気もいいけれど、夜はキャンドルにしよう。

11月16日(金) 

きのうのタクシーの運転手さんは女性で、15分ほどの乗車中、二人で話し込んだ。秋について。今日は、これまで見たことのないほど長い飛行機雲が青空に引かれていた。ふと、つらいと思った。なんの脈絡もなく。

11月15日(木) 

黄色の葉の木が臙脂色や深緑色の葉をつけた樹木に混ざっていると、そこだけ輝いているようで、その場を動きたくなくなる。ましてや先に不忍池が広がっていれば・・・ハシビロコウは今日もそっぽを向いて立っていた。

11月14日(水)

新聞は毎日、紙で読むので、朝日新聞デジタルはコンピューター使用中に覗く程度だった。今日はじめて連載小説『聖痕』をもしやと開いてみたら、あの筒井康隆の難しい言葉や漢字がすべて横書き。意外な新鮮さだ。

11月13日(火) 

少し悲しいときのBGMはタンゴ。心が強いときはアルゼンチンがいいけれど、弱いときはコンチネンタルの嫋々とした流れにのる。私が塗り絵をさせられるとしたらアンパンマンはいや。きいちのぬりえにしてほしい。

11月12日(月)

馬の取材をしていた友人が落馬して脚を骨折したという。又聞きなので詳しくは分からない。入院はしていないようで、かえって大変そう。百頭の放牧馬といっしょに満月を観るはずだったのだから、月よ、力を与えよ。

11月11日(日)

今日も秋らしく、食べることの記録。気合いの入った野菜とベーコンのスープ、スペアリブが最高。デザートの生チョコレートと日本茶が沁みて、冬の到来を告げそうな雨も心地よく感じる。若さはいいなあと思いつつ。

11月10日(土)

最近多い食べ物 —— 秋鮭としめじのバター蒸し、きのこ類の炊き込みご飯、ベーコンとトマト、銀杏入りかき揚げ、煮魚、ブルドックソースをかけるもの(例えばオムレツ)、チンゲンサイとかたやきそば、柿、そして柿。

11月9日(金) 

言い古された名言や格言は好まない。でもいつも言葉を探している。フジテレビ『世界は言葉でできている』は秀逸な番組で、とくに前からファンだった若林正恭コトバスターがすてき。胸に響く言葉を生み出してくれる。

11月8日(木) 

ヤクルトを配達、販売している女の人たちって、健気だ。商品が詰まっていて重いはずのバッグを担いで階段を駆けあがる。ネット社会で、直接見られる笑顔は地域の軽犯罪防止にもなると頼られる存在。がんばってね。

11月7日(水)

オバマ米大統領が再選を決めた。中国ではやはり「奥巴馬」として伝えているのだろうか。米国側は発音が原語に近いという理由で「欧巴馬」とするよう要請していると読んだことがある。日本語はカタカナがあって便利。

11月6日(火) 

一日中の秋雨に、午後4時ともなると目に見える世界が灰色に包まれ、その中でとつぜん、紅緋色と翡翠色のあかりを横列に鮮やかに、きらっと華やかに灯した屋形船が隅田川を滑っていく。誰か乗っているのだろうか。

11月5日(月)

「日蓮宗の尼僧になります」。私がクリスマスに向けてアドヴェント・カレンダーを送ったお返事だった。父上の跡を継いでとのことだけれど、なんていろいろな人生があるのだろう。私のようにピントはずれも含めて。

11月4日(日) 

ピアノは閉めた蓋の上が物置化しているし、チェロは形がチェロなだけ・・・で、トイピアノを買おうか、どうしようか。先週カワイであったコンサートに行き、表参道の本店の窓に並んでいるのをしばらく見つめた。

11月3日(土)

世の中は休日でもバスや電車の時間以外、関係ない。横浜で授業をして新宿で授業を受ける。どちらででも感じのいい人たちの顔を見て、一方的にハッピーな気分だ。きのうは新宿の葛きりと銀座のモンブランで幸せに。

11月2日(金)

新宿の南口から東口に向かって歩きながら、散々迷って、それでも約束の時間にはどうにか間に合い「柿傳」の落ち着いた部屋でほっとする。新宿と渋谷はいつまでも苦手な場所。日本では東京しか知らない人間なのに。

 11月1日(木) 

いろいろな国の、英文字を習うためのワークブックーー今日の思いがけないお土産は中国の子どもが使う練習帳で、とても嬉しい。集めているのを覚えていてくれたのが何より。zh の練習の絵は小蜘蛛、ri は向日葵。