98字日記ーひとりのときに

9月30日(月)
観たかった映画『北の果ての小さな村で』を三鷹からの帰りにようやく。グリーンランドにデンマーク語を教えに赴任した青年の目を通して描かれるイヌイットの人、生活。氷と雪の壮大な景色が心が震えるほど美しい。

9月29日(日)
「マリアノ・フォルチュニ 展」を観る。ヴェネチアの香が懐かしい。フォルチュニ美術館については全く知らず、私が初めてヴェネチアに行ったのは、まだ住んでいた邸が美術館になっていなかった頃。華麗な静けさ。

9月28日(土)
国体開会式挨拶で「ニーゼロニーゼロ東京オリンピック」というのを聞いた。「にせんにじゅうねん」とか言わない? ちょうど割算の筆算の時の形を何というのか調べていて、名前がないって本当? 日本語は難しい。

9月27日(金)
臼歯を一個、インプラントにする治療で、ようやく土台が固まったらしい。手術の手順を院長先生が丁寧に説明してくれる。iPad の画面に現れる自分の歯並びを見ながら宇宙船の構造について聞いているような気がした。

9月26日(木)
外でふと疲れたとき口に入れるのは小さな meiji ミルクチョコレート。15センチほどの箱に金色の紙に包まて10個入っている。パッケージが素敵で、カチッと引き出した蓋は押すと自然に折れ曲がって、パチッと閉まる。

9月25日(水)
中国の広州旅行のお土産にいただいたフォーチュン・クッキーは 「Your cheerful outlook is one of your best assets」。どう訳そうか? 「ぼうっと呑気な外見が財産ですね」。Mもエストニアから無事帰国とのこと。

9月24日(火)
訳あってお湯を沸かすのに琺瑯のミルクパンを使っている。昔、こうしていた気がする。分量が分かり、すぐに湧いて気に入っている。でも今日は慌てた。6人分の紅茶を淹れることもあるのを忘れていた。薬缶を買おう。

9月23日(月・休)
10月から消費税が10%になるといって物の売り込みが激しく、消費者も浮き足立っているとは主としてテレビの報道。その後もセールはあると思うのに・・・私もノンアルコールの缶ビールを数ダース注文した。

9月22日(日)
いま毎週一度はJRの三鷹駅に降り吉祥寺駅で乗る。三鷹の落ち着きに比べて吉祥寺の混沌ぶりがひどい。南側も北側もガサガサしているし駅ビルの中の店も安ければ良しという雰囲気。我が故郷よ、知的な品も忘れずに。

9月21日(土)
片桐はいりのエッセイ集『もぎりよ今夜も有難う』が愉しかったのに、その前の2冊をようやく最近、読む。フィンランドの旅『わたしのマトカ』もよかったが、とくに『グアテマラの弟』は人と国が躍動していて感激した。

9月20日(金)
心配していても仕方ないことながら、心にかかることがあると展覧会や映画にも気軽に出かけられない。もっとも週に1日くらいは家にじっとしていたいとも思う。好きな映画『エリン・ブロコビッチ』の後半をTVで観る。

9月19日(木)
新宿住友ビルの新しい上部が見えてきた。ガラス状の四角形が連なって大きな半円形の屋根となるらしい。「2020年6月オープン」という宣言も垂れ幕になった。それまで私が続けていられたら来夏は直結地下鉄で行かれる。

9月18日(水)
翻訳塾で40数人に毎週会うことが私の元気のもと。講座後にロビーでランチをしたり時に先週のようにファミレスに行ったりするほかに、まずは添削が絆となる。突然メール一本や黙って辞めてしまう人もいるけれど。

9月17日(火)
真っ青な空に浮かぶ白い大きな雲が地球の外の宙の在処を、悠然と語っているようだった。4日前のことになる仲秋の名月は、夜中の3時に起き三角出窓にぴったり収まって光を部屋の奥まで投げ入れてくれるのを受けとめた。

9月16日(月)
朝9時からのNHK・Pカフェは滅多にみられない。今日は再放送の「森の祈りが生んだコメ」。タイのクイタ村にカレン族を訪ね、陸稲を育て竹で道具を作り炊いたお米を食べる様子を追う、火野正平の自然体がよかった。

9月15日(日)
5年後、高齢者5人に1人が認知症という厚労省の数字に心が沈む。程度の差はあれ近辺の人にその気配を見るときは、まずはそのまま受けとめよう。でも不安や恐怖を抱える人への対処法はもっと社会全体で知らなくては。

9月14日(土)
千葉の台風被害の大きさが分かってくるにつれて支援の遅さが残念。東京の隣りなのに。昨日、今日と涼しくなって、少しは動きやすいかしら。涼しさには私もほっとしている。あの目眩と悪心は三度はしたくない。

9月13日(金)
紙は残る。書かれた物も残る。トルコのユルドゥズ宮殿で修復中の日本刺繍による花鳥図の下から、1886年2月24日付朝日新聞が出てきたという。他にも明治19~20年の紙面も。電子データが残るのとは大きく趣がちがう。

9月12日(木)
ひとつの翻訳が新たな知識につながっていくのは、いつもながら楽しい。レイモンド・ブリッグズの『エセルとアーネスト』が映画化されたし、世界初の女性映画監督アリス・ギイ=ブラシェの伝記絵本が出版された。

9月11日(水)
台風の影響で恐ろしいのは停電で、猛暑が続いている今は命に関わる。千葉南部の停電は明後日まで回復しないのだ。講座後のランチタイムで簡単な自家発電装置の備えも必要では、という話が出た。地元行政の必須課題!

9月10日(火)
昨日ホールが空いていたのは一昨夜の台風15号のため。夜通しの豪風雨で交通機関が昨日の朝は回復していなかった。多勢が大変な思いをしている時に私は美容院に行き映画を観た。こよなく穏やかで静謐な時間だった。

9月9日(月)
『聖なる泉の少女』をみる。ジョージアのアチャラ地方が舞台。伝来の信仰によって泉の水で人の傷を癒す娘の「普通」でいたい願いが、水、空気、魚、山の幻のような映像となっていた。岩波ホールで観客10人。

9月8日(日)
東京パラリンピックの抽選販売チケットに申し込んでみる。インターネットでのみ可能で、登録しておいたIDとパスワードを使う。待ち時間もなく申し込み確認もきたけれど、現代人はこういう操作が出来て当然なの?

9月7日(土)
昨日、歯医者での1時間半の苦行を耐えて熱中症の不安から解き放たれ、姉は病院を移って一応落ち着き、いつも乗る京急快特と大型トラックとの衝突事故で今朝はルートを変えたけれど帰りは開通していた。さあ日常へ!

9月6日(金)
近年、パタゴニアやオーストラリアで次々と草食恐竜の化石が発見されているなか、北海道鵡川町で発掘された新属新種「むかわ竜」の学名が「カムイサウルス・ジャポニクス」に決まりそう。7千万年前にいた草食系。

9月5日(木)
カルチャーの後で三鷹に行くのに大江戸線を使わずJRの新宿駅まで歩いてみた。動く歩道で助かったものの駅構内の工事で迂回したり人混みが激しかったり。こんな大変な思いをして講座に来てくれる人達に頭が下がる。

9月4日(水)
フィリスさんの夫アショクさんが亡くなった。肝臓ガンがみつかったと2週間ほど前に聞いたばかりだった。ボストンまで飛んで行かれないので、あの優しい風貌と話し方を思い出して偲ぶ。会えなくなる人が次々と・・

9月3日(火)
築地市場を隅田川のこちら側から見ると、すっかり変わってきている。船着場の奥はもう更地になっているらしく、新大橋通りに面して朝日新聞社を中二階まで隠している植栽の緑が見えてきた。勝どき橋も改装中。

9月2日(月)
洗った寝具がさっぱりと乾き、27度に設定した部屋は居心地よく、添削がすすむ。ベッドに寝たきりのひとやリハビリに励んでいるひとたちが、どうかあまり辛くなく、柔らかな時間を過ごせますように。秋はもうすぐ。

9月1日(日)
「若し4だとすれば、斜線はそのままにして、たての線とよこの線を伸ばす。Aならば、凭れ合っているどちらか一方の線を延長します。そんな形になった辻があって、まんなかの三角形の区劃内に三角形の洋館が立っていました」(稲垣足穂『夢がしゃがんでいる』から抜粋)