98字日記ー2017年4月

4月30日(日)
夕方近く郵便をポストに入れにいき、セーター姿のまま、ふとバスに乗って東京駅ギャラリーの『アドルフ・ヴェルフリ展』へ。生涯をかけてスイスの精神科病室で埋めていった膨大な頁数の緻密な物語性は、ただ凄い。

4月29日(土)
小学校や中学校のクラスメートが当時、家庭教師を付けてもらっていたと最近、知った。そう言えば、と思い当たるが、私にとって家庭教師とは自分がするものでしかなく高校生のときから頼まれていた。貧しかったから?

4月28日(金)
なんとなく一日が過ぎてしまうという一番きらいなパターンで時間が流れた。何もしないのも、そのつもりでいればそれでいいのだけれど、思いがけずそうなる一日は寂しい。一杯の美味しい緑茶で我が心を取り戻す。

4月27日(木)
今日の2クラスを終えてゴールデンウィークにはいる。来週の土曜日まで休みで少し落ち着けそう。毎週のクラスが苦闘しているコーネルを隔週のクラスでも紹介したい。適切な課題が見つかるかどうか探してみよう。

4月26日(水)
数年前からシニアの社会でたびたび口にのぼる言葉がある。教育と教養がなくてはだめね。つまり「今日、行く所があり、今日、用事がなければだめ」ということ。シニアが元気でいるためのおまじないのようなもの。

4月25日(火)
とうとう辺野古の埋め立てが始まった。何十個もの砕石の入った網がクレーンで吊り上げられ、次々と青い海の中に沈められていく。これから土砂がそそがれる。いま、たったいまも、そこには魚やサンゴがいるのに。

4月24日(月)
毎月、第4週が一番きついことに自覚がない。決まっていることが集中する週なのに、大抵は第3週のゆるやかさにだけ嬉しくなって次の週への心構えがない。これって大昔から変わらない私の生き方。成長のない人生。

4月23日(日)
フィギュアの国別対抗で最高点をマークしたロシアのメドベジェワの曲は、あの寂しく胸に迫る「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」だった。キャベツと椎茸と熊本の活きアサリで春らしく寂しいスープを作る。

4月22日(土)
昨日はヒューマントラストから三菱一号館美術館まで歩き、『ナビ派』展へ。ひたすらヴュイヤールが観たかったしドニもボナールもよかったのだけれど、その前の映画の印象があまりに深く心から離れず、また改めて。

4月21日(金)
フリーの一日で、まず『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観る。ケン・ローチ監督らしい、人間の尊厳を描き出した傑作。『SWEET SIXTEEN』以来見逃さないできたのに引退かと心配していたけれど、最高の輝きをみた。

4月20日(木)
メデア・ゴツィリゼ先生のブログ「私の国ジョージア」が充実していて楽しい。別にメールをいただき、ショータくんは4歳とのこと。幼稚園で作ったカードは母の日用で、花瓶が開いて水が見えるという発想がいい。

4月19日(水)
アマーストにあるエミリー・ディキンソンの家はミュージアムになっている。そのホームページによると、明日の20日が「ポケットに詩を」の日で、好きな詩を暗唱したら入場無料になる。なんて素敵な計らいだろう。

4月18日(火)
50年前の今日、寺山修司が天井桟敷を旗揚げしたそうだ。夕べ、ディキンソン詩集を本棚で探しながら、寺山編著の『日本童謡集』に手が伸びた。「赤いくつ」「星の流れに」など二百点もの全歌詞と譜のスグレモノ。

4月17日(月)
キッチンの流しの上の細長い蛍光灯が切れた。なんとなくはずし、適当に同じくらいの長さのを買ってきて取り付けてスイッチを入れたら、大成功。『騎士団長殺し』を読み終え、Travel Stories を読み、好きな詩を読む。

4月16日(日)
地上から地下鉄の駅へ階段を下りていくと、爽やかな風が吹いて一緒に桜の花びらが舞い込み、足元をかすめていく。空は晴れやかで気持ちのいい一日だった。朝6時にブラインドを開けると外は光る緑ばかりの季節。

4月15日(土)
飛行機が空を行くのも不思議だけれど、大きな船が海の波をわけて滑るように進むのも魔術的。横浜港大桟橋に停泊しているクルーズ船「ドーン・プリンセス」の写真を画面で見られるよう送ってもらい心弾む非日常性。

4月14日(金)
土曜クラス16人分の添削が、どんとあって、一人一時間かかることもあるので、いつ終わることやら。BGMは映画の英語で『クリスマス・キャロル』『シャイン』『マイ・インターン』。デニーロとハサウェイ、素敵。

4月13日(木)
ミラノとロンドンでの仕事からMが帰り、ほっとする。このところのテロの多発は本当に不安。私がまた海外に出ることはあるだろうか。都庁の申請所の前を通るので、旅券の有効期限がもうすぐ切れることを思い出す。

4月12日(水)
久しぶりにパテ屋と「えんがわ」に八人でいく。東横線沿線も田園調布の街のあちこちも、昨日の冬の寒さに負けなかった満開の桜に彩られていた。ふと曲がった道の先に大きな桜の木が一本あったりするのが一番いい。

4月11日(火)
冬の寒さ。どうしてもプリントして明日渡したい資料があり、勝どきへ。風も空気もキリキリと冷たく、満開の桜を思いやる。そして帰ってくる途中でプリントを持って来なかったと気付く。どうする?明日の朝、寄る?

4月10日(月)
春風亭一之輔を追う50分番組をみた。重なって別チャンネルで「落語ザMOVIE」もみた。落語がこんなに注目されるのは歓迎すべきこと。一人であらゆる時間、空間をまたいで何人も演じる最高大衆芸術なのだから。

4月9日(日)
「笑点」に新たな真打ち8人が登場して挨拶をした中に三遊亭ときんさんがいたので、Mに電話した。ミラノで電車に乗っているところだという。東京ですぐ近くにいるときと同じにかけられて話せる不思議さ!

4月8日(土)
話には聞いていた、1歳未満の赤ちゃんが乳母車の中でゲーム機を使うのを、バスの中で初めて見た。横にいた3歳くらいのおにいちゃんが、時々手を出してじゃまをする。何がいけないのかと言われるだろうか・・・

4月7日(金)
久しぶりに家に一日中いることにする。豚肉の薄切り、青梗菜、シメジを使ってしまおうとガーリックで香りをつけ、大吟醸を注ぐ。これって常夜鍋というはず。朝食としてはノーテンキな食生活。でもおいしかった。

4月6日(木)
林屋晴三先生が亡くなられた。クレマンソー蒐集の香合に一つひとつ名称を付ける時、私が「交趾写し」と漢字が書けずに「東京の人は教養がない」と叱られた。あれから40年以上ずっと、師でありつづけて下さった。

4月5日(水)
「スペ、ルー、ド、ポー、イギ、ノル、フィ  欧州の国名記す点字地球儀」(福田万里子・朝日歌壇 2017・3・20)高野公彦選者評によると、点字は小さくできないので、スペインが「スペ」と略記されるという。

4月4日(火)
昨夕の春雷と豪雨で満開近くになった桜の花がどうだったか心配だった。バスの中から見る新川、中川、隅田川とどこの川辺でも枝を広げた桜の木々は光っていて、数日でこの辺りが最高の舞台になる気配が漲っていた。

4月3日(月)
最近の論壇時評で納得したのは、小熊英二の「時間給の最低賃金を正社員の給与水準以上にすること」という提案。正社員に固執せず過度の長時間労働が減れば、個々がもっと自由で豊かな生活がおくれるのではないか。

4月2日(日)
午後遅く急に行くことにして『パロディ、二重の声  日本の一九七0年代前後左右』をみに、のり子さんと東京ステーションギャラリーへ。企画と集めた作品、雑誌、文字の熱さ
に感服。断片的だった記憶がつながった。

4月1日(土)
『騎士団長殺し』の騎士団長の話し方には英語が取り入れられていると思う。相手が一人でも「諸君」と言うのは、YOU そのまま。「あらない」は IS NOT の絶妙な日本語版。と考えて科白を楽しみ比喩に感じ入る。