98字日記ー2013年4月

4月30日(火)

ポストイットの数々は愛する必需品で、ほんっとに失礼ながら、どなたから貰ったのか判然としないのもあり、エジプト土産の小型メモサイズやMOMAの多色入り、栞兼用の鉛筆型などなど、元気の素となっている。

4月29日(月・休) 

政府の褒章の時期。贈られた知人には、心から「おめでとう」と言ってはきたけれど——制度そのものには疑問をもっている。公平な選別でもなく、こういう出費を公立小学校の給食費や消費税アップに回してほしい。

4月28日(日) 

新宿の映画館が幾つか新しくなっていた。最近行ったのではピカデリーとシネマカリテ。どこも清潔で椅子も快適だし、女の子にとって決死の覚悟で飛び込む巣窟ようだった昔からすると夢のようで、この変化は嬉しい。

4月27日(土) 

連休の始まり。ひっそりと静まる街を歩くのはいいのだけれど、乗り物の中は、優先席に平気で座る傍若無人な家族連れや入り口を塞いで立つ若者たちばかりで辛い。なぜ、と問いかけたい。なぜ、そんなに横暴なの。

4月26日(金) 

日本政府はまたも署名を見送り——ジュネーブでの核不拡散準備委員会で核兵器の非人道性をうたう共同声明に。核兵器廃絶という当然の目標に近づけない。この小さな惑星の上でどうしてこんな危険を抱えているのか。

4月25日(木) 

思い出す物、リボン。いつ頃から女の子がリボンをつけなくなったのか。肩の下まである髪を二つに分けて耳の上で結んだり、長い三つ編みの先につけたり。グログランのきりっとした手触りも、格子柄も懐かしい。

4月24日(水) 

今日の雨は育花雨かしら。家の近くでは躑躅がつぎつぎと華やいでいく。濃いピンクが一番多いけれど、バス停の前は20米くらい連なった垣が全部、白。真っ白。咲きそろったときに吸い込むように見ておかないと。

4月23日(火)

ふとできた時間に三菱一号館へ。ジャン=レオン・ジェロームの『蛇使い』は思ったより小さな作品だった。サイード著『オリエンタリズム』の表紙に使われていて、幻想で描かれたということが、まさにぴったり。

4月22日(月)

窓から見る川が久しぶりに青く澄んでいて、穏やかに跳ね返す日の光は春。朝日新聞の天気予報欄では東京の隣が新潟で、よく東京の太陽マークの上に雪だるまがあり申し訳なくなる。東北にも春が来ていますように。

4月21日(日)

3月後半頃とはうってかわって、みにいきたい映画、足を運びたい展覧会が多い。音楽会は秋に集中して当惑するほどだし、寒い冬や暑い夏にも万遍なく開いてほしい。文化庁の認可といった事情もあるらしいけれど。

4月20日(土)

ごく数少ない化粧品のなかで最近気に入っているのがMOROCCANOIL。朝、シャンプーをして髪をタオルで拭き、このオイルをワンプッシュ手に馴染ませ、濡れた髪につける。そしてドライヤーで一気に乾かすと南の香。

4月19日(金) 

映画では時間的に最後までみられなかったヴィム・ヴェンダース監督『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』をDVDで。最初の舞台上と最後の稜線上の長い列こそ目に焼き付いているヴッパタールの象徴。ピナは美しい。

4月18日(木) 

一緒に学んでいる人たちと話していて、授業によって90分があっという間に終わってしまうのと、途中で終わりが待ち遠しくてこっそり時計を見てしまうのとがあると、印象が一致した。私のはどうかなあ。自信なし。

4月17日(水) 

主婦の投書。乳がんの手術をおえベッドに寝たきりのとき、病院の掃除は床だけだった。身を起こせるようになって、ウェットティシュで少しずつ横の壁を拭いていると、すっかりきれいになった。こういう人、好き!

4月16日(火)

三国連太郎、死去。昨年だったか東京都現代美術館でフレデリック・バック展があったとき、音声ガイドのバックの独白部分を受け持っていて、その声がセクシーだった。ご本人の自主制作『岸のない河』をもう一度みたい。

4月15日(月) 

中学生の数学のごく初歩ができなかった。9.42÷.7で、商を小数点以下第二位まで求め、あまりも出すという問題。小数点の位置を変えて割るのは覚えていたのに、あまりを2.4として間違えた。正解は0.024。

4月14日(日)

多摩墓地はすっかり葉桜となり、植込みや樹木の緑が光りはじめていた。5人の孫の最後のゴールインなどを両親に報告する。見守ってやってください。一家10人での墓参は父の十七回忌。いつの間にかそんな年月が。

4月13日(土) 

最近は夜遅くの帰宅はやめているのだけれど、久しぶりの神田、久しぶりの居酒屋は居心地いい。この過ぎし冬、「やまに」にも行かなかったし、築地で牡蠣フライも食べなかった。急に後悔気分。「跳人」からの帰りに。

4月12日(金) 

DNAの二重らせん構造発見者クリックとワトソンの本は、理系にしごく弱いのに昔、読んだ。感銘を受けたのは、時に寝る間も惜しむ二人が週末は徹底的に遊ぶこと。クリックの息子宛ての手紙が6億円で落札された。

4月11日(木)

代々木から新宿住友ビルに向うとき雨が降り始め、通りかかったタクシーに。この辺りで育ち、一面が野原だった思い出を話してくれた運転手さんは、少し遠回りになったからと初乗りでメーターを止めて入り口まで。

4月10日(水) 

廊下の書棚で小林信彦『極東セレナーデ』に目がとまり、こういうのもあったのに、と思う。1986年から1年、朝日夕刊の連載だった。原発安全キャンペーンのCM出演を拒否するアイドルの利奈。名前も思い出した。

4月9日(火)

英国のマーガレット・サッチャー元首相が87歳で亡くなる。いつのことだったか来日中に、どこかのホテルでのパーティーにプレスのひとりとして招ばれ、握手をした。小柄で優しい感じで、手はとても柔らかだった。

4月8日(月) 

晴れていれば夕方6時でも明るい。国立天文台の発表では今日の東京の日の出は5時21分、日の入りは18時07分。9月まで昼間がどんどん長くなっていく。月も星もいいけれど、ああ、やっぱり明るいのが好き。

4月7日(日) 

72分27秒——亡くなった敦子さんの来し方を、高校時代の親友るみ子さんに電話で聞く。最期の頃のひたすら清楚で素朴で柔和だったという姿は、私の知る15歳の少女と重なる。栃木は今日、ヒョウが降ったとか。

4月6日(土) 

最近は天気予報が過剰。不要不急の外出はするななんて、余計なお世話・・・なのに従って、横浜から直帰の結果ただの雨降りで、家でぐだぐだとお茶を飲むだけで夜更けとなり、雰囲気が必要な気分屋の自分と会った。

4月5日(金) 

起きがけに英語の短編集数冊から10本ほど読む。10ページ以上になると課題には無理。短いほどシニカルだったり恐ろしかったりする作品が多くて、密度が濃く、しかも爽やかな読後感のあるものが見つからない。

4月4日(木)

この頃ジュースのように缶ショウチュウサワーを飲むことがあるけれど、食事の時はワインになる。赤が多いなかで、この数日は白のロス・ヴァスコス・シャルドネ。一番好きな日本酒は、なぜか一人のときは飲まない。

4月3日(水) 

朝7時半にバス停に向かうときは、まだ篠つく雨で、傘を差していたのに両腕が袖を通して冷たくなるほど。さすがに桜の花びらが散りこぼれて道を白く埋めていた。翻訳塾も受講者数が減り閉じる頃合いかもしれない。

4月2日(火)

朝6時の音楽番組が最近はあまり楽しくない。でも今朝はショパンの始めで目覚め、最初は速く弾けばいいわけじゃないと思っていたのがそのうち一緒に呼吸するほど魅かれて——アンリ・バルダ。ピアノソナタ第三番。

4月1日(月)
さかしい眼をするあをい狐よ、/夏葦のしげるなかに/おまへの足をやすめて/うららかに光明の心をきる。/草間の風を、/その豊麗を背にうけよ、背にうけよ。(大手拓次 1953年発行『近代日本抒情詩集』から)