98字日記ー2020年10月

10月31日(土)
毎日ここに98文字を記すのに何か意味があるだろうか。自分を知るためかもしれない。80歳を過ぎたらどうなるか想像も出来なかったのに、これまでとほとんど変わらない自分がいる。とりわけ、感じ、考える上では。

10月30日(金)
今日の Google のロゴをクリックすると、ハロウィンのお化けの doodle が始まる。説明を詳しく読むほど熱心にはならず、ただシンプルにお化けをやっつけて点数を見る。こうして遊んでいるのかしら、よく電車の中で。

10月29日(木)
翻訳塾は受講者数が減って続けられなくなりそうなクラスもある。そういう時、14年ぶりです、と改めて入ってくれる方もいて、その長い間、忘れずに心に留めて置いてくださったことが本当に嬉しい。今日は十三夜。

10月28日(水)
一日の間にいろいろな人と会って別々の話をするように、一つの読み物に集中しない癖がある。合間に一編だけ読んで、その瞬間、風に吹かれたようになるのがいい。例えば江國香織の短編。例えば「草之丞の話」。

10月27日(火)
英語から翻訳された小説はあまり読まないのだけれど、ジョン・グリシャムの ”Camino Island” は超面白くて冒頭を課題にしたので、出たばかりの優れた村上春樹訳で改めて読み耽る。ただ邦題はあまり好きではない。

10月26日(月)
フリーダ・カーロの人生を1000個のピースで1枚の絵柄に完成させた。明るい花と草と鳥たちに囲まれた潔い顔、民族衣装、義足、青い家、バスと路上電車の衝突でパタンと仰向けになった姿、ディエゴ・リベラ・・・

10月25日(日)

バスに車椅子の二人連れが乗った。一人で付き添っていた女性が私の隣に座り車内中に謝るので、日曜日だし気にしなくても、と私が言い、楽しい会話になった。月島の亀の散歩を見たとか窓辺の柳の葉がきれいだとか。

10月24日(土)
勝どきの部屋からの夜景。勝鬨橋のアーチが白、欄干が青とクリアに輝き、海側にできた築地大橋の青いアーチと白い欄干と対のよう。市場がなくて暗い川面を不意に、青と緑のライトに包まれた船が滑っていった。

10月23日(金)
郵便局に書留の再配達を頼むのに、初めてQRコードでアクセス。その簡単さにショックすら覚えた。打ち間違えそうな追跡番号もそのまま出てきて、1分で終わる。こんなに簡単で、できた時間でみんな何をしているの?

10月22日(木)
どういう流れか、ふいに道子ちゃんを思い出した。このコロナ騒ぎで日本に帰れないことは聞いた。検索の‘michiko  kitayama skinner ‘には演劇衣装デザイナーとしてマイアミ大准教授として素敵な笑顔が見られた。

10月21日(水)
昔の仕事について短文を頼まれ、ギリシャ出張を記憶にのぼらせた。1979年のはず。必ずMは幾つだったか同時に考え、それで様々な場面が具体的になる。でも年数が合わない。自分の経歴ぐらい覚えておきなさい。

10月20日(火)
テッセラ音楽祭からのメールで、昨年だかの『イノック・アーデン』の松平敬・朗読、中川賢一・ピアノを YouTube で視聴できると知り、1時間。さらにテニスンの本が懐かしくなり道下匡子訳を手に取る。恋の行方。

10月19日(月)
よくつくる食事は?と聞かれて、いい加減な日々を送っていると気づく。外では美味しいのがなくて自分で作るのは、胡瓜のサンドイッチ、ホワイトシチュー、人参の天ぷら、ラタトュイユ、各種お味噌汁、などなど。

10月18日(日)
アメリカはもちろんヨーロッパ各国での新型コロナ感染者の数が、まだまだ増えている。フランスもドイツもイタリアも・・・1日に1万人という数字が恐ろしい。それでも来年、東京オリンピックをするなんて奇怪。

10月17日(土)
NYフィルが来年半ばまで休演。180年の歴史で年間活動の全面中止は初めて、ということは第二次世界大戦の時も演奏会はあったのだ。メジャーリーグも。このパンデミックの巨大な恐怖がじわじわと押し寄せる。

10月16日(金)
『鬼滅の刃』の評判ぶりに漫画で読むかアニメで見るかMに相談した時、話は殺しの連続と聞いてやめた。アニメを少し見て刀と刀のシャキーンという音で疲れたし。映画化されて1日42回上映とか。迷わず、見ない。

10月15日(木)
ある場所に来ると激しく思い出すひとがいる。不思議。だってそこは最近出来たばかりの下りのエスカレーターで、そのひとと一緒に来たはずもなければ、何か連想することがあるわけでもない。地下からゴースト?

10月14日(水)
ノーベル文学賞に決まった米国のルイーズ・グリュックの詩集は1冊も邦訳されていないなんて!でも北海道在住の米文学者・木村淳子さんが同人誌に12篇、載せていた。よかった。“Wild Iris”は家にもあるはず・・

10月13日(火)
平等院鳳凰堂が無断で写真を撮ってジグソーパズルにしたと玩具会社を訴えた。写真の著作権に関する主張はいいが「ズタズタにした」「宗教への敬意を」などという言葉はいただけない。月下の御堂・・美しいのに。

10月12日(月)
スマホやパソコンの調子がわるい時、どうすればいいかMが即座に電話で指示してくれる。手元に同じ物があるわけではないのに説明できるのは、きっとシステムが完全に頭に入っていてイメージできるから。感謝。

10月11日(日)
この2週間、アゼルバイジャンとアルメニアがまたナゴルノ・カラバフ自治州をめぐって戦闘状態にあった。ロシアの呼び掛けで停戦にはなったけれど怪しい雲行き。いつまで続くのか。私はジョージア語の短編を読む。

10月10日(土)
「ジョブチューン」でセブンイレブンのエクレアとシュー・ア・ラ・クレームが満点を取っていた。行けば必ずどちらか買う130円の名品。担当者の話では、餌も特注の鶏の卵を使うという。そのこだわりが凄い。

10月9日(金)
昨日、今日と気温16度。郵便局まで行くのにも今年ゲットしたレインコートを着る。厚手のポリエステルが風を通さず、ロイヤルブルーの発色といい形といい英国風だけれど日本製。ローズ色のもあり・・いつ着る?

10月8日(木)
印鑑を押す習慣を見直す方向にあるのは、いいことだ。高橋なんてどこの判子屋にも置いてあって何の威厳もない。ただ英語で手紙を書き、こちらのサインの末尾に朱印を押すとかっこいいので、昔はよくやっていた。

10月7日(水)
昨日、水谷豊主演『相棒』20周年記念で二度みている「密愛」をまた。録画はしないから再放送が嬉しい岸惠子登場の特別編。罪の意識からではなく生涯に一度の恋を知ってもらいたかったからというラストがいい。

10月6日(火)
ジグソーパズルはピースのどこに注目するか。最初は形。大抵は縁を作りながら全体とピースの印象を掴む。それから色。次に図。友人に麻雀をしよう、囲碁をやろうと誘われるけれど、今は思いが深く、一人で遊ぶ。

10月5日(月)
作品を見てよかったと思ったのはやっぱり李禹煥。草間彌生は別格。印刷物ではそれほど好きだとも思えないのに、実物からは圧倒的なオーラを感じるのが奈良美智。今年の新作「Miss Moonlight」も輝いていた。

10月4日(日)
今朝の朝日歌壇で4人の選者全員から選ばれた、「ふうせんが九つとんでいきましたひきざんはいつもちょっとかなしい」奈良市・やまぞえそうすけ。山添姓が他に二人。福井の松田わこ、梨子姉妹に次ぐ家族歌人たち?

10月3日(土)
必ずしも誰もが楽しく小説を読むわけではない。ごく当然のことなのに、翻訳塾では時々それを忘れてしまい、英語の理解力のある人が文章のうわべを滑るだけの訳し方しかしないと心底、残念になる。反省。人は人。

10月2日(金)
昨夜は10時に就寝。2時に目覚め、月を求めて出窓を見るとすでに強い光が差し込んでいた。月の位置が高くてベランダに出ないと姿は見えない。でもやがてまさに煌々と輝いて窓枠に収まった。5時に西で低くなるまで。

10月1日(木)
「キーツのネガティブ・ケイパビリティとは不可思議さ、神秘、疑念をそのまま持ち続け、性急な事実や理由を求めないという態度です。宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力です。分かったつもりの理解は、高い次元にまで発展しないのです。」(帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ』から)