98字日記ー2013年8月

8月31日(土)

ほとんど感想をもらわないこの日記に、タンゴについて3人もメールをくれたのが嬉しい。『ジーラ・ジーラ』など心に響くものがどこかでつながっているのかも。藤沢嵐子とあの頃の前座・菅原洋一を久しぶりに聴こう。

8月30日(金) 

朝のTV番組「クラシック倶楽部」で私には幻のファツィオーリを初めて見た。でもほとんど音だけ聴いていたので、ピアノに書かれたFAZIOLIという文字に最後に気づいただけ。どこのホールだったのか、知りたい。

8月29日(木)

子どもを二人連れた夫婦がどちらかの両親と一緒に地下鉄に乗ってきて優先席8つを占め、通路を挟んでお菓子のやりとり。よくある光景で、高齢の人がそばにいても我関せず。若者たちも優先席が好きで、残念な社会。

8月28日(水)

コーヒーだけで最高のタンゴの演奏を聴いていた新宿の店の名前を思い出せなかったのに、藤沢嵐子さんの訃報を見たとたん「ラ・セーヌ」だ!早川真平とオルケスタ・ティピカ東京。十代の好きなひとりの時間だった。

8月27日(火)

久しぶりに朝、起きると同時に熱い珈琲か紅茶を飲みたいと思った。夜間に激しく雨が降って涼しくなったらしく、いつもより遅く配達された新聞は薄いポリ袋入り。10月期の課題を決めるのに朝から晩までかかる。

8月26日(月) 

すっかり電子辞書を使うようになった。早く調べられるし英和、英英、和英、広辞苑と即座に行き来できる。書き込みは従来の紙の大辞典に。授業中にいつもみている人が増えたのは辛いけれど、大人のクラスということか。

8月25日(日) 

4本のフランスの短編映画をみて初めてのダニー・ド・ヴァンの作品がよかった。10分のアニメーション『水泳教室』が子どもの不安や喜びを描きだし、何事もなかったかのように思う大人が脚だけで表現されていた。

8月24日(土) 

早川さんのご遺族からのカタログによるお返し受取りを延ばしていた。やっと今日、送ってもらう手配をしたら、偶然、恵子夫人から百日ですというご書状をいただいた。元氣な人がふいにいなくなるのは納得しがたい。

8月23日(金)

山田洋次監督の「学校」シリーズ4本をかなり連続して見直した。一番好きなのはIVの『十五才』。家出した不登校の男子中学生がヒッチハイクで屋久島を目指す。そう、不登校の子ってこういう感じが多い、と思い出す。

8月22日(木)

イチローの4000本安打ってすごいことらしい。よかった。駅などを歩くときは腰への負担を考え、階段ではなくスロープを使うと読んだことがある。自分に課した規律を守る人。この日記はそろそろ500日分に。

8月21日(水)

午後。稲妻、雷鳴、豪雨のすぐ向こうの空に重なる雲が切れて太陽がきらきら輝いている。橋の上の車列も川の上の遊覧船も慌ただしげなのに音はなく、部屋の中ではグリーグのピアノ協奏曲が響いている。人生のよう。

8月20日(火)

福島で露地栽培される胡瓜が最盛期だそうで、新聞にJAの人の言葉があった。「塩もみしたキュウリが熱中症対策になります」。近所で元気だった方がぱたっと亡くなられて、熱中症だったのではともっぱらの噂なのだ。

8月19日(月)

人気作家の新作を課題にいれたく、長編2冊を読みあげた。ダン・ブラウン『インフェルノ』とスティーブン・キング『ジョイランド』。小説の構成が似ていて1ページか長くて5ページごとに区切られている。読ませるため?

8月18日(日) 

暑気払いがバラバラと始まっている。今年は当番なので、自治会のもあり、喉にはよくないと思いつつビールを飲みながら3時間。ずっと縁の下の力持ちをしてき昭和7年生まれの女の方と話がたくさんできてよかった。

8月17日(土) 

暑さは続いているけれど、蝉の声が必死になってきた。武蔵五日市では夜はもう虫の声よ、と告げられた。夏には秋を想う、この感性が育まれる日本の風土はこよなく愛しい。海辺も里山も自然を慈しんで大切にしたい。

8月16日(金)

1920年代のファッションとアクセサリーを幾つかのサイトでみていて、エニッド・コリンズという名前に行き当たった。木製バッグにメキシコに多い鳥ロードランナーが輝いているのに魅せられる。ミチバシリ属。

 8月15日(木)

今日の私のオマージュは岩波で観た2本のドキュメンタリー映画、6年前の『ヒロシマナガサキ』と先日の『ひろしま 石内都』のそれぞれのパンフレットを読み返すこと。でも今に直結している沖縄も忘れられない。

8月14日(水) 

今朝か、昨夜か、2時半に起きてモスクワ世界選手権大会でのエレーナ・イシンバエワの棒高跳びをTV観戦。すごい集中力で4・89メートルをただ一人跳び、優勝。きりっとした顔が美しかった。16年間続ける見事さ。

8月13日(火)

待つ、ことが苦手。イギリスから取り寄せた本が留守中に届いていて仕事場で今日の再配達を頼んだため、ひたすら待っている。夜7時から9時の予定で、もう9時近い。待ちの時間はまとまったことができない・・・

8月12日(月) 
今週中、日本列島が熱に覆われるようだ。熱中症などという言葉は近年まで知らなかった。どうか、みんなが乗り切れますように。と言いつつ、帽子も傘も用意しない自分は? 今日は蟄居して文字が友だち。洗濯を3回できた。

8月11日(日)

猛暑というより過激暑。日曜日の昼間、外はさすがに人気がない。昨日は人がひしめきあっていた勝どき橋も寂しげで、夕焼けを映していた川面が束の間、薄紫色の世界に変貌する。エアコンのための咳で人と会えない。

8月10日(土) 

東京湾華火大会の会場に急ぐ人波と逆行して戻ると、門前仲町のあたりでは御神輿がいくつも待機し法被姿の老若男女があちこちに集まっている。下町は夏がよく似合う。私はいただいた胡瓜のおいしさに幸せでいる。

8月9日(金)

銀座、新宿でHさんと映画3本のはしご。ジャンヌ・モロー主演『クロワッサンで朝食を』、ヴァネッサ・レッドグレイヴとテレンス・スタンプの『アンコール!』、インドの映画『スタンリーのお弁当箱』。どれも堪能。

8月8日(木)

もう何回目かしら、杉井ギサブロー監督の映画『銀河鉄道の夜』を今日はTV画面でみる。本を横に置いて。読むたびに新しい発見がある作品なのだ。映画で好きなのは声に屈託のない牛乳屋。ジョバンニ、よかったね。

8月7日(水) 

夏!茂みが青々と枝葉を広げているのを、造園業の人たちが電動ノコで整えていく。背が高い木はきれいな長円形になり、灌木は四角い箱のように表面を平らにされて行儀よく並ぶ。ドクダミのにおいがぷ〜んと漂う。

8月6日(火)

岩波で先週みた『ひろしま』を胸のうちで思い返す。カナダで開かれた石内都さんの写真展「遺されたものたち」を追ったリンダ・ホーグランド監督のドキュメンタリー。私と同じ「自分」をカナダの人も感じただろうか。

8月5日(月) 

気力と体力のバランスが自然にとれて仕事をしたのは40代だった——質的な面は別として。その頃に仕事の方向転換を余儀なくされ、意外やそのお陰で今があるとはいえ、転換前10数年の仲間と飲み語れるのは嬉しい。 

8月4日(日)

低く低く沈んでいる日。何をするでもなく、あたりを片付けたり、ぼんやりと空を眺めたり。でも日曜日をこうして過ごすと、途端に水、木に会う人たち40人分の訳文を見る時間がなくなり焦り出す。それが私の日常。

8月3日(土)

花火職人の技に向き合い、仕掛けを正面からみるために、年に一度、こちらも気合いをいれて待ち構える河原での午後から夜。それは報われて、文字通り光と色と音を浴び、その中に入り、受けとめる。ときには仰向けで。

8月2日(金)

カステラの縁の澁さよな/褐色(かばいろ)の澁さよな/粉のこぼれが眼について/ほろほろと泣かるる。/まあ、何とせう/赤い夕日に、うしろ向いて/ひとり植ゑた石竹(北原白秋『過ぎし日』から「カステラ」) 

8月1日(木) 

続き。スペインのタリファとモロッコのタンジールを繋いで大陸の境界を消した子ども達の手にはサンダルやバブーシュに手製の帆をつけた船。会場にはその実物も並び、大画面に映された海の前で私はひとり溺れかけた。