98字日記ー2017年10月

10月31日(火)
今月はいつもに増して日の経つのが早かった。ぼんやりしていると早いのか、忙しく充実していると早いのか。忙しかった後は必ず、ぼうっとして埋め合わせるので、プラスマイナスゼロの日々なのだろう、おそらく。

10月30日(月)
家の中から見る外は暖かく、空はこよなく青く、つい薄着で出かけたら寒い! 激しい風は木枯しにほかならず、ビルの合間などでは増幅されて吹き飛ばされる危険を感じた。大きなスカーフで身を包み風の中を泳いだ。

10月29日(日)
日曜朝のテレビ番組「ボクら」はコーヒーを飲みながらなんとなく聞き流していることが多い。でも今朝は正面から見て、聞いた。中谷美紀、若林正恭、オダギリジョーの三人のトーク。なぜ旅をするか、がテーマだった。

10月28日(土)
須賀敦子の『地図のない道』が初めて読むように新鮮だった。矢島翠の解説も深い。かつて須賀が矢島について「まれな教養と素質が爽やかな理性に支えられている」と書いたが、同じことが須賀に捧げられている。

10月27日(金)
歌麿の肉筆による大三部作『雪・月・花』を見たかったのと箱根の山中の岡田美術館に一度行きたかったのと、二人の友の同行を得て願いが実現できた。『吉原の花』はアメリカから貸し出された作品で絢爛豪華の極み。

10月26日(木)
久しぶりに煌々と輝く月を見た。上弦の月。月がなければ自分が地球にいるとは感じられない。よき眺め!今日は新宿で2クラスあり、どちらも人数が少ない分、よく顔が見えた。一人ひとり、個性的で素敵な人たち。

10月25日(水)
東京は早々と過ぎていった台風21号も和歌山や岐阜では崖崩れなどで民家を押しつぶした。そんな思いがけない災害に遭った人たちはどう立ち直っていくのだろうか。福島も東北もまだまだ。台風22号が続いている。

10月24日(火)
『パターソン』で詩人の女の子を演じたのは13歳のスターリング・ジェリンズだった。去りかけて振り返り、ディキンソンは好き?と聞くシーンも動画で発見した。主人公が声に出しながら書いていく詩の字もすべて。

10月23日(月)
東京は夜中に通り過ぎた超大型の台風のように、一過性であってほしい衆院選での与党大勝。空も青く晴れきらず強い風が不規則に吹き付けてきて、新宿のビルの谷間にいると怖ろしいほどだった。ジョージア語の日。

10月22日(日)
いま朝8時前。衆院選投票を終えてきた。台風が日本列島全土に襲いかかろうとしていて、すでに雨が特有の降り方をしている。早朝の便で福岡に戻るMも仕事場を出たことだろうが、今日は剛さんが一緒なので安心。

10月21日(土)
昨日の深夜、TVドラマ「漱石の妻」全篇を放映していたので尾野真千子の熱演に引きずられて見てしまい、今日は睡眠不足。本も読んでいたので、鏡子の視点が強い話の筋よりも明治時代の住まいや着物に惹かれて

10月20日(金)
美智子皇后83歳の誕生日に公表された記者会質問への文書回答は凛として美しかった。ICANのノーベル平和賞受賞について「核兵器の非人道性に・・ようやく世界の目が向けられた」と述べられているのも嬉しい。

10月19日(木)
真夏から真冬に変わったような気温変化に体が戸惑っている。一日中、雨が降っていて全てが冷たく、よろよろと家に帰って、ほっとする。ご飯、野菜たっぷりのお味噌汁、納豆、岩のり、煮物、とにかく熱い日本茶。

10月18日(水)
上野動物園から受ける連絡は、パンダが食べ残した笹から作られた再生紙の封筒で届く。それがさらに工夫されて、大封筒の場合、宛名が上の方に印字され、下の部分を切り取ると普通の封筒として使えるのだ。素敵。

10月17日(火)
仕事場のCDを聴き直している。今日は韓国のイ・スンヒ『Jエゲ』のアルバム。80年代、朝に駅へ急ぐとき、いつもウォークマンで聴いていた。切ない歌詞だとは知らずにパ
ワフルな声に元気づけられ、いまでも好き。

10月16日(月)
家で卵1個を目玉焼きに、1個をスクランブルにして自分がどちらを好きか調べた。白身だけ先に焼き真ん中にチーズをのせて黄身を置くのと、弱火でバターを少し絡めながらトロトロに仕上げるのと、両方好きだった。

10月15日(日)
eiga.comで『パターソン』の予告編と動画として、パターソンと一人の少女とが詩の話をする大好きなシーンを紹介している。このふたりの表情が何ともいえず素敵。映画では見過ごされる心の襞を10回以上みている。

10月14日(土)
地元の大ホールが満員だった。ジャズナイトは渡辺香津美と本田雅人がメイン。渡辺ギターが聴きたくて行って衝撃的だったのは本田サックスとビッグバンド。艶やかに広がり身にも心にも刺さり染み込む響きだった。

10月13日(金)
世界の都市総合力ランキングは、昨年と同じで1位のロンドン、2位のニューヨークにつづいて東京が3位。そういうところに住む恩恵は自覚しているけれど、長たる都知事は国政に力を注ぎ、衆院選に飛び回る。

10月12日(木)
新宿のクラスでノーベル文学賞が話題になる。少しでも原作に触れていると感想は実感のともなった言葉になる。私がカズオ・イシグロがとると予告したそうだけれど、今年とは思っていなかった。村上春樹もきっと。

10月11日(水)
地下鉄の車両内で知人に会い、話が弾むというか、近況をいろいろ話してくれる。でも連結部に近い座席で音がすさまじい。一生懸命聞いて、相槌を大体の感じで打って、駅について静かな時にかぎって話題が途切れる。

10月10日(火)
疲れがとれず体調を崩す寸前の気配。でも勝どきに物を送ったという連絡にほぼ必死に朝のうちに出かける。ちょうどMから郵便物転送を頼まれたので行ってよかった。日が高いうちに戻り、夕方から3時間の熟睡。

10月9日(月)
きのう有楽町ヒューマントラストへ行く前、入れるのか気になりスマホで申し込む。8割は埋まった座席表から空いている席を選ぶと、すぐに確認のメールが来た。入口ではその画面をかざすだけでOK。すごい世の中。

10月8日(日)
ジム・ジャームッシュ監督『パターソン』をみた。詩を愛して詩を書くバス運転手パターソンの一週間。日本の詩人として最後の重要なシーンをつくる永瀬正敏(あの『あん』の)の舞台挨拶があって、ラッキーだった。

10月7日(土)
6、7年ぶりという友人とラデュレで紅茶を飲み、明月庵田中屋でせいろ蕎麦。これまでの人生で、いやな人に会ったことがないという言葉は衝撃的だった。なんて幸せだったことかと思い、そう言い切れることに大拍手。

10月6日(金)
カズオ・イシグロの発表直後インタビューなど報道が落ち着いてきたが、ワイドニュース番組のキャスターやコメンテーターが軒並み、作品を読んだことがないと言うのには驚く。名前すら知らないとも。文学は遠い存在?

10月5日(木)
今年のノーベル文学賞受賞はカズオ・イシグロだった。翻訳塾課題にも幾度か取り上げ・・・たと思ってチェックしたら最新作からの抜粋や短編など数は多くなかったが、英語そのものがきわめて深く心に残っている。

10月4日(水)
横浜の帰りに日本橋で「池田学展」に。ペン先で一日に10センチ四方を埋めて3年がかりで仕上げた大作は迫力そのもの。米チェゼン美術館・レジデンシーとしての成果『誕生』をみる。1973年生まれの魂ある職人芸。

10月3日(火)
東京タワーの夜の姿が金色とオレンジ色の冬色に変わり、暮れる濃紺色の空によく似合う。新宿で単発の翻訳塾をしたものの不本意な内容で、疲れだけが重なった。言い忘れたことを今頃思い出したりして。まあいいか。

10月2日(月)
長寿検診では、まず問診票のチェック。自分で番号を調べて電話はかけられる。今日の日付や曜日は20代でもしょっちゅう分からなかった。「人の役に立っていると思いますか」。まさか。なんという質問をするの?

10月1日(日)
「風景は白色の画面に浮いている/滲む影の輪郭がときおりずれる/ずれると見えても動かないから観念が影を呼ぶように思う   何かが裡でずれる/音上げずに息をのむようにして移動する/けれどもなにも動かず無表情である」(「光る粒」冒頭・浮海啓詩集『森に消える老人たち』から)