98字日記ー2021年3月

3月31日(水)
私の弱点は押しが強くないことだと思う。強情だし言いたいことを言うのに躊躇はしないけれど、反論されると、それ以上追わない。どうぞ、と引き下がる。仕事でそういう場面がよくあったと今頃悔いたりする。

3月30日(火)
天気もよく午前中に竹橋へ。上村松園の六条御息所を描いた《焔》があと数日の展示の『あやしい絵』展。もっとも嫉妬は私の苦手なテーマなので、みたというだけの満足度だった。お濠の桜が舞い散って綺麗だった。

3月29日(月)
メール注文でAmazonから、というよりバリューブックスから本が届くことに慣れすぎ。久しぶりに銀座の教文館へ。クレストから『赤いモレスキンの女』を選び文庫2冊と雑誌1冊を買う。それでも重い、と思う。

3月28日(日)
養老孟司『骸骨巡礼』で印象的だった文章。「『自分のもの』という人生は、年老いてみればわかるが、貧しいものである」。でも巻末に高橋秀実が同じ節を拾っていた。ラブリーなヒトという、よき言葉と共に。

3月27日(土)
笑ってしまった。自分は老害と言われて憤然とする森元首相が今度は現役の女性秘書を「おばちゃんで、女性というにはあまりにもお年」と言ったそうだ。面白いから、この世代の代表としてもっと白状したら・・

3月26日(金)
ぱくきょんみさんから新しい詩集が届けられた。濃緑の表紙にきょんみさんの字で「ひとりで行け」とあって、どきっとする。今のわたしにドーンとぶつけられた気がした。「ホンジャ カラ ホンジャ カラゲ」

3月25日(木)
新宿住友ビルの改装後の入口に猫の彫像があり、碑文を読むと、太田道灌の道案内をして救い、江戸城を築く先導となったという猫だった。流政之の作品で、以前は正面玄関にあったらしく見たことがなかった。

3月24日(水)
バスや電車の窓外に桜の満開。門前仲町でも。心臓の手術から完治した甲賀さん、公子さんと三人で深川不動尊にお参りしたのは15年くらい前?帰りに甲賀さんが伊勢屋で塩豆大福を食べたいと言い、買って2階で。

3月23日(火)
ああ、また、別れ。昨22日に平野甲賀さんが亡くなったと知る。同じ年齢という小さな集まりもあったが、何より私の最初の書き下ろし『英語となかよくなれる本』の装丁をしてもらえたのが嬉しかった。あの文字で。

3月22日(月)
区の検診で、人の名前を忘れる、夕べ何を食べたか覚えていないと答えたら、認知症健診を受けることになった。30点満点の29点。満点でもよかったと思う易しいテストで認知症の心配はゼロとのこと。ふん。

3月21日(日)
『激レアさん』で好きだった人たちの再放映。トリッキングで世界の頂点に立った大典さん。「元カレが好きだったカレー」と銘打って自作のカレーで天狼院書店カフェを立て直した川代さん。熱い思い入れこそ!

3月20日(土)
横浜で講座。後でティータイムを持つことはやめているけれど、とにかく顔を見て元気であることを確かめられるのはいい。オンライン講座も数を増していながら・・私のジョージア語はペーパーのみ。ごめんなさい。

3月19日(金)
初めて!「この郵便物は取扱中に郵便切手が離脱したものと認められますのでこのまま送達します。宇都宮東郵便局」。追加の2円兎が82円切手があったはずの空間を示していた。離脱って・・つまり逃げたのね。

3月18日(木)
高橋源一郎の今朝のコラムから連想して森崎和江、谷川雁、そして矢川澄子、澁澤龍彦。あの時ヤガワさんは71歳だった。老齢よと言っていて私もそれを自然に受け止めていた。若かったのに!今日はB の命日。

3月17日(水)
ひとの死を受け入れるのは辛い、難しい、納得できない。すでになんて多くの友を送ったことか。そんなに早くいなくならないで! 置いていかないで! 人生はあまりに短いと思わせて去っていくなんて・・・

3月16日(火)
友人や知り合いで最近、転んで骨折したり怪我をしたという話が多い。コロナ禍で自粛を強いられ足元が覚束なくなりがちなのではないかしら。家に閉じこもり過ぎないで、と言いたい。私も転ばないように願って。

3月15日(月)
家からポストまで約500歩。今日は2度往復したので2000歩、歩いた。一日5000歩なんてあり得ない。横浜や新宿に行くのも乗り物とエレベーターの連続だし、身体が重いので16時間ファスティングをする、絶対に。

3月14日(日)
「讃美歌に小節まわして叱られる」。大好きな川柳のひとつ。ずっと誰の作かと気になっていた。時実新子の『有夫恋』は知っている?と聞かれてページを繰った『咲くやこの花』で佐野日咲枝作と、偶然、見つけた。

3月13日(土)
絵本の翻訳で使う日本語のレベルは考えもの。赤ちゃん言葉がいいとも限らない。子供は難しい言葉がとても好きだし。Mが2歳でとくに好きだったのは二つ。「ふろより楽はなかりけり」「肉体疲労時の栄養補給」。

3月12日(金)
東日本大震災という名称は閣議で決められたもので、気象庁は東北地方太平洋沖地震と呼んでいた。その呼称はもう消えたのかどうか。福島原発=人災と津波=天災とがストレートに伝わる名前があるといい。

3月11日(木)
東日本大震災から10年目。午後2時46分、新宿・英文翻訳塾Aクラスの最中で、みんなで1分の黙祷をする。10年前は金曜日で、木曜日なら、ちょうどこの授業中に恐れ慄いたことだろう。どこででもありうる天災。

3月10日(水)
とみに歩き方が遅くなった。しかもつい下を向きがち。向こうから来る人にすれ違う寸前まで気づかない。でも元気と言われ、こともあろうにエネルギッシュと言われ・・きっと突き放されたのだ。いい加減にしろと。

3月9日(火)
確定申告書を書き上げ税務署に持って行った。例年、締切ギリギリに出していたのに何という速さ。偉い! 自分で計算しボールペンで書き込む最レトロな書類。etax が浸透したからか並ばず窓口に即、提出して終り。

3月8日(月)
久しぶりの雨。今年の冬、傘を差したことがなかった気がする。昨日は Yasukoさんが「あなたの選んだ道は間違いない。でも道を選べないこともある」と思い出させてくれた。よし、元気を出そう。彼女も傘寿。

3月7日(日)
リハビリ中の rumiko  さんから短歌。「いまつよく君をしのべり何もかもを告げずに生きたその深さまで」「何を運ぶ舟でありしかわたくしは小さき声が胸にありしよ」など15首。骨折したのはあなたなのに・・・

3月6日(土)
『dancyu』4月号がいい。特集が「シンプルパスタ」で、なかでも11人のシェフによるトマトソースがそれぞれシンプルの極み。つまり簡単なようで、超難しいはず。水の飛ばし加減で決まるとか。材料1人分が嬉しい。

3月5日(金)
『Camino Winds』を読み終えた。後半どんどん、つまらなくなった。芥川賞受賞・宇佐美りん作『推し、燃ゆ』を読んだ。才能は感じたけれど心は弾まなかった。ウー・ウェンの料理魂が好きでレシピを文学だと思う。

3月4日(木)
一日、家にいて、久しぶりにロストロポーヴィッチでベートーベンのチェロソナタを聴く。いつも涙が出そうになる。くれた人が自分では・・あ、誰が好きって言っていたのか私は忘れている。忘れることもある。

3月3日(水)
横浜カルチャーのロビーに、つるし雛がたくさん飾られていて愛らしい。縮緬布で作られた膨らみが優しくて。クラスの人達がそれぞれのお家の雛飾りをスマホで見せてくれた。お母様のもの、自分の幼い時のもの。

3月2日(火)
人伝てで、50代後半の友人がキッチンドリンカーとなり、治療で抜け出せたと思ったのに後戻りしているという。よほど辛い原因があるのだろう。どうか考えこまないでと何の助けにもならない言葉しか浮かばない。

3月1日(月)
「平面の三角形では内角の和は二直角と決まっているが、球面では三直角にもなり得る。航海術で必要になるのは球面三角法だ」わたしはこれを美しいと思った。(池澤夏樹『また会う日まで』から抜粋)