98字日記ー2021年4月

4月30日(金)
乙川優三郎の作品に私淑していながら『ロゴスの市』を読んでいなかったとは! 2015年に出されていたというのに。ふと指先からこぼれ落ちてしまったかのような取り返しのつかなさ。睡眠を減らして二日で完読。

4月29日(木)
新宿クラスに行くと、他の教室はほとんどライトが点いていず、まさに緊急事態宣言下の連休第一日目。でもカルチャーとしては閉業していない。都庁前駅もガランとしていて、私はむしろ宣言解除後に気をつけたい。

4月28日(水)
すでに連休に入ったかのように交通機関が空いていた。自宅に留まるという要請が功を奏しているのかも知れないが、緑あふれる小公園や緑道にも全く人の姿がないのは、どうして? 繁華街か家かの二択しかない?

4月27日(火)
昨日の授賞式で3人の女性のスピーチがかっこよかった。ジャオ監督の『三字経』から引いた「人之初 性本善」、マクドーマンドの超短い「この仕事が好き」、助演女優賞のヨジュンの「運がよかった」という飾らなさ。

4月26日(月)
アカデミー賞授賞式の中継をみる。2ヵ月遅れでLAのユニオンステーションを主会場にして幾つもの会場をつなぐ、いわゆるzoom中継。『ノマドランド』が作品、監督、主演女優賞を得た。みているので納得の結果。

4月25日(日)
4都府県での3回目の緊急事態宣言で今日から、先ずは5月11日までを目処に、百貨店や大型施設が休業に入る。沢山の公演が中止、美術館も休館。全国では4日連続で1日5千人を越す感染者が出ているのだから。嗚呼。

4月24日(土)
福岡に戻るMとのランチは、最近、気に入っているパターン。コロナ禍に対する自衛姿勢として生まれた策で、勝どきの二人の仕事場でお弁当を食べる。今日は日本橋弁松のお赤飯との取り合わせ。美味しかった。

4月23日(金)
眠るまで本を読んでいて、最近の感動物はA・ローランの恋物語『赤いモレスキンの女』。ただ題は「赤い手帳」だけの方がいいのに。猫に餌をやるシーンが幾度もあり、台詞以外で「餌をあげる」というのもいや。

4月22日(木)
端正な美しさをもつと言えば乙川優三郎の文章で、『トワイライト・シャッフル』は衝撃だった。今日はメトロの車内でずっと『R.S. ヴィラセニョール』を読み耽る。前に一度読んでいるのにまた引き込まれて読む。

4月21日(水)
この1年、これまであまり読まなかった筆者のものを選ぶことが多かった。迷いの時期に無意識に新たな出口を求めて。養老孟司、宮田輝、小池真理子、帚木蓬生、クレストブックスの数々。詩も。川柳も。短歌も。

4月20日(火)
コロナに関する数字で明け暮れる日々、他に衝撃的だったのは中高生の20人に1人という数字。初の全国調査で明らかになった、家族の介護や家事の担い手となっている子ども達だ。一日4時間平均という数字もある。

4月19日(月)
二十数年通った美容室でケアしてくれてきたヤスコ店長が、今度は男性スタイリストと二人だけの小さな隠れ家的な店を開いた。遠赤の装置など全てが新しく、雑誌もタブレットで読む。歩いて行かれる嬉しい場所。

4月18日(日)
ユーロスペースで代島治彦監督『きみが死んだあとで』が公開中。きわめて気になる、あの67年の羽田闘争ーーあの、と言えば通じるヒリヒリする痛みと共に、60年安保闘争以降の多くの記憶が押し寄せてくる。

4月17日(土)
夜、電話をもらって、2時間近く話していた。『ノマドランド』からメトのオペラ、オペレッタ、歌舞伎、玉三郎、衣装、踊り、邦楽器、日劇、ラスベガス、断捨離はできない、旅行、外国、青森、ねぶた、奈良美智・・

4月16日(金)
1959年の映画『縛り首の木 (Hanging Tree)』。西部劇がそろそろ終わる頃の「文芸的作品」といわれるが、こんな野蛮な世界に生きてなくてよかった。ゲイリー・クーパーは素敵すぎ、マリア・シェルは美しすぎ。

4月15日(木)
新宿住友ビルで北野エースという食料品店に初めて入った。見たことのない種類のレトルト食品やスナックが綺麗なパッケージでぎっしり並んでいる。カルディや成城石井との初対面に似ていた。通うことになりそう。

4月14日(水)
今日も映画! ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』はあまりに何回もみていて家で好きな箇所だけ。LAのかっこいい女性運転手。NYの客のヨーヨーが運転するシーン。パリの盲目の若い女性客。

4月13日(火)
今朝の映画は『風をつかまえた少年』。5時からの放映に目を開けられたのは後半だけ。独学で発電風車を作ったマラウイの少年の実話に基き、明日からマラウイ紀行文の課題を添削するうえにも見たかったもの。

4月12日(月)
家で映画2本。1902年生まれの女性指揮者アントニア・ブリコを描いた『レディ・マエストロ』。1940年代前半の日本を舞台とする『スパイの妻』。こちらは暗い画面が多く我が家の古いテレビでは細部の理解不能。

4月11日(日)
早朝、日本橋へ。映画『ノマドランド』をみる。クロエ・ジャオ監督、主演フランシス・マクドーマンド。大スクリーンを埋める空、砂漠、海、岩、光、道・・・車上生活をする人たちが求めるのは誇りある自由?

4月10日(土)
ゆうべ映画『ザ・ゴールドフィンチ』をTVで。公開された? 原作を読んでいないと理解しにくいかもしれないサスペンス仕立て。最初を語る美しいシーンが最後にあり、エンドロールの背景があの絵『ごしきひわ』。

4月9日(金)
オリンピック開会式の見事な演出企画を覆し若い発想を排除した重苦しい力、納得のいかない利益団体である音楽著作権協会会長を文化庁長官に据えた力。市民の心や生活に直結するところが古色蒼然として・・・

4月8日(木)
バス停のベンチの下に「障害者手帳」というのか証明書と小銭が入ったパスケースが落ちていた。私の前にいた方に拾ってもらい一緒に調べたうえ、私が預かって駅前の交番に届けた。持ち主に戻りますように。

4月7日(水)
ドナ・タートの『ゴールドフィンチ』がいつの間にか訳されて出版され(4分冊!)映画にもなっていた。原作を読んで課題にしたのは何時だったかチェックすると、もう5年前。年月の長さ、前後の関係があやふや。

4月6日(火)
先週、だった?もう分からなくなっているけれどMと三越本店で2年ぶりに買った服がちょうどいい。ヤッコマリカルドを着ていってヤッコマリカルドで。コムデギャルソンを着ていたMはコムデギャルソンで。

4月5日(月)
朝3時には目が覚め、TVでマーラーの『巨人』の演奏を途中から聴き、5時からはセルゲイ・ドガージンのバイオリンでチャイコフスキー『バイオリン協奏曲』。2、3年前に聞いたことのある
演奏の再放送だと思いつつ。

4月4日(日)
この1年は長かった。来し方を考え、囚われ、タブッキの『可能性のノスタルジー』という言葉そのまま、まさにその靄の中にいた1年だった。ようやくそこから抜けて新たな境地に入れるかもしれない。5日を前にして。

4月3日(土)
有本師子さん。30数年前、AW編集長の時に「ファンです」と手紙をいただいて以来のペンパルだった。春になると姫路発お手製のイカナゴの釘煮と東京発チョコレートの交換。弟さんの葉書で64歳での急逝を知る。

4月2日(金)
2カ月ごとの歯の検診と清掃に津川歯科へ。いま20本あり、うち1本がインプラント。いつのまに減ってしまったのかしらと思うが、年齢的には上等の部類とのこと。とにかく好きなものを好きなだけ食べたいがゆえに。

4月1日(木)
「・・・そんな事はどうでもよい/わたしは大事の大事を忘れてた/夢からも/わたしのよく見る夢からも/こんなに真赤な臙脂(べに)の採れるのを。」(与謝野晶子『紅い夢』から)