おらおらでひとりいぐも  ORA,ORA BE GOIN'ALONE

2020年11月6日発行   編集:東宝ステラ 発行:東宝  定価800円

 

 この頃、パンフレットの値段が映画の入場料に近くなってきた。それが妥当なことなのかどうか、わからない。でもふと、買おうかどうしようかと迷うことが多くなった。シニアの特権で入場料が割引になるので、その分、と思いながら買う。そして渡されたこのパンフレットを見て、わあ、素敵、買ってよかったと思った。

 小型で横長。表紙は白地にマンモスが1頭。日本語と英語の題字のデザインもいい。軽いマットの紙質で全編最後まで白地であることが、読むうえで何より嬉しい。表紙には他に英文字で、原作者・若竹千佐子、監督/脚本・沖田修一、主演・田中裕子の名前が入っている。本文の最初の4ページが「地球 46億年の記録」としてスターバーストから初期人類が現れるまでのイラストで埋められている。75歳の主人公・桃子さんが図書館から借りては調べ、ノートに書き込んでいる趣味の世界だ。そのぶっ飛び方が映画の中でも効果的にあしらわれていて、心の声が3人の分身となり「寂しさ」が元気いっぱいに飛び回ることと相まって見事。

 「ストーリー」も、キャストコメント、監督と原作者それぞれとのインタビューも実に読みやすく、気持ちのいいページになっている。さらに2本のレビューも深く、この映画の本質をついているのはインタビュワー・平田真人の手腕によるものかもしれない。養老孟司・解剖学者の「社会と人間の距離の取り方」に視点をおいた言葉は、この映画をどう見るか、改めて示唆してくれるものだった。

 久しぶりに映画パンフレット評を書こうと思わせてくれた、まれに見る”満点”をあげたいパンフレットだ。

 映画について少し。桃子さんの脳内で鳴っている音楽がジャズであるなら、もう少し、随所でジャズを入れて欲しかった。観るものとしては、そのほうが主人公に気持ちを寄せられたのではないかと思う。台詞のほとんどが東北弁なのは、よかった。といっても私は全く理解できない部分が多々あって、ただそれもよくて、一言ひとことがくっきりと聞こえる必要はない。字幕などで補わなかったのは大正解。少し気になるのは、原作者がインタビューで「(生き方として)愛か自由かの二択だとしたら、愛なんて蹴飛ばしてでも自由を選ぶ人でいたい」というのが伝えたいメッセージだと言っているのに、私は東北弁ゆえかそれが聞き取れなかったから。138分は長すぎる気がした。最後に私が一番好きだったのは、街が雪で覆われている中を桃子さんがいつもより大股でさっさと歩く遠景で、少し後ろからマンモスがついていくシーン。