テルマエ・ロマエ  THERMAE ROMAE

2012年4月28日発行 発行=東宝(株)出版 編集=(株)東宝ステラ 


 なんという壮大なマンガを描いた人(ヤマザキマリ)がいて、なんという奇想天外な映画を生み出した人たち(監督・武内英樹、脚本・武藤将吾)がいたことだろう。
 映画を観て、心底そう思った。古代ローマと現代日本とを浴場を通じて結びつけてしまうなんて信じられない思いつきだ。全編、笑いに満ちているのに、ふざけちらしている感じはまったくない。それは主役の浴場設計技師ルシウス・阿部寛の演技によるところも多いにちがいない。最高に素敵な映画だ。
 そのパンフレット。ローマ史を含め、さまざまな記述が実にしっかりと構成されて入っている。阿部寛はもとより、市村正親、上戸彩、北村一輝、宍戸開などなど、出演者へのインタビューがすべて、映画との関わり方に触れながら語られていることが、内容の厚みを増している。あまりに盛りだくさんであるためか小さな活字がぎっちり詰まっていて、たとえば「テルマエ~ローマの風呂事情」「銭湯の壁に描かれる富士山のはなし」といったタイトルに興味をかきたてられるのに、実は読むのは一苦労。
 でもこのパンフレットは映画を観た人はもちろん、観なかった人にも熟読する価値がある。だからこそ、いつも感じることだがSTORYは最後まできっちりと書いておいてほしかった。そうすれば1冊の単行本に匹敵するものとなる。パンフレットは映画公開前に配るチラシではないでしょう、と繰り返し言いたい。
 映画の見所は古代ローマと日本両方の浴場セットにもあったが、その美術の優れた技について、断片的な紹介でなく、パンフレットでもっと深く知りたかった。イタリアのチネチッタ撮影所の様子やイタリア側のエキストラ達の様子についても、もう少し。と、どんどん知りたくなるのはパンフレットに対して欲張り過ぎだろうか。
 音楽についても同じ。テーマ曲はイギリスのラッセル・ワトソンが歌っているほかに、壮麗なオペラのアリアはプラシド・ドミンゴだという。そのあたりが、映画を観ているときも、パンフレットのなかでも、いまひとつはっきり分からない。音楽の見事さが重要な役割を果たしていただけに、明解に記しておいてください。知りたいです。
 最後に、インタビューや紹介などで、原作者を「先生」と呼ばないでもらいたい。大文豪であろうと漫画家であろうと、相手を先生と呼んだとたんに、チープな雰囲気になってしまう。
 (補足。2013年3月8日、「第36回日本アカデミー賞」で、最優秀主演男優賞が、この『テルマエ・ロマエ』の古代ローマ人役を演じた阿部寛に贈られた。)