オロ OLO,The boy from Tibet

2012年6月30日発行 発行=スコブル工房

かもめ食堂 RUOKALA LOKKI

2006年3月11日発行 発行=かもめ商会

ベルヴィル・ランデブー Belleville Rendez-vous

2004年12月18日発行 発行=クロックワークス


 この3本の映画を並べたのは、パンフレットの形に工夫があるという点からだけで、あとは3本とも個人的に気に入っているからともいえる。形が普通の綴じてある冊子風ではなく、映画の内容に合わせているパンフレットは他にも幾つもあるが、この3本は形に主張がある。


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 『オロ』は、その名前のチベット難民の少年を主人公にしたドキュメンタリー作品で、監督は岩佐寿弥。オロはわずか6歳のときにチベットを脱出してヒマラヤを越え、半年後にインド北部のダラムサラに着き、いまもそこの「チベット子ども村」で生活し、勉強している。監督やスタッフの姿が見え、声が聞こえる制作で、それがパンフレットにもよく表れている。
 24ページが屏風式に折り畳まれて小振りのパンフレットとなっており、とても読みやすい。とくに冒頭のオロ少年から監督あての英語の手紙と監督からオロへの語りかけは、この映画そのものの感触をもつ。音楽や絵、撮影などでかかわったスタッフの文も映画の側面を知ることができて興味深い。できればこのうちの一人か、あるいはプロデューサーの言葉で、ドキュメンタリーといえどもストーリーを紹介しておいてほしいと思った。観客にとっては、このパンフレットが作品の記録になる。(実は取材用だと思うが、四つ折りにしてA4版の資料を貰い、パンフレットの内容としてはこちらも魅力的だと思った。私がいつもこだわるストーリーもとてもいい形で載っている。)
 そしてパンフレットの最大の特徴は畳んだページの裏側にある。各ページがそれぞれ五色のチベットの祈祷旗となっていて全部広げると色鮮やかな旗が10枚つながり、圧巻。
 表紙が下田昌克の絵によるオロの顔であるのも、裏表紙の白黒のアニメの1シーンもいい。少年オロが映画の中で、チベットではお母さんが赤ちゃんをあやすとき「オーロ、オロ、オロ」って言うんだよ、といい表情で語っていたのを思い出させてくれる。

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 『かもめ食堂』は脚本・監督が萩上直子。この映画の企画のために群ようこが原作を書き下ろした、フィンランド・ヘルシンキに日本人女性(小林聡美)が開いた食堂が舞台。片桐はいりともたいまさこという個性的な二人の女優を配して穏やかな深さのある作品で、見終わって気持ちがよかった。
 そんな気持ちのよさが詰まっているようなパンフレットは表紙がスーツケースの形になっていて、厚紙を切り抜いた把手には手を入れて持てる。もたいまさこ演じるマサコの名前の搭乗券やシールが貼ってあり、ひとつひとつ手作業でなければできない荷札までくくりつけてある。
 それだけ凝っていながら、色遣いは控えめで、写真も統一されたトーンをもち、フィンランドという国を象徴する感触がある。おにぎり、鮭の網焼き、豚のショウガ焼きといった食堂のメニューもしっかりあるのが嬉しい。
 大げさでない遊び心と作品全体の雰囲気がパンフレットの形から伺われて、映画って楽しいね、という後味を残してくれている。でも——これもストーリーは、こう終わっている。「そんな人々が織り成す妙に懐かしく心地よい、かもめ食堂の物語が始まります。」
 ね、始まりで、終わるのだ。ストーリーをパンフレットで最後までしっかり読みたいという私の願いは、こうしていつも裏切られる。

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『ベルヴィル・ランデブー』のパンフレットの形は紙芝居。
 紙芝居の枠に厚紙の絵が14枚、入っている。絵はすべて映画のシーンだ。それぞれの裏に文字がぎっしりと詰まっていて、なぜか地が濃い灰色なので黒い活字が読みにくい。
 監督・脚本・絵コンテ・グラフィックデザインのすべてがシルヴァン・ショメで、戦後まもないフランスが舞台。ツール・ド・フランスに出るほどの自転車選手に育て上げたシャンピオンという名前の孫をマフィアに誘拐されて、おばあちゃんが大救出に向かうアニメーション活劇。絵はときにグロテスクなのに、なぜかしみじみ懐かしい感じがする。三つ子のおばあちゃんたちが奇妙きてれつな演奏(楽器は全部家財道具)のカットを含め、パンフレットに選ばれたシーンはこの長編漫画の楽しさを呼び戻してくれる。
 ただ最高に素晴らしかった音楽はパンフレットではどうしようもない。主題歌の作曲も含めて音楽製作はほとんどブノワ・シャレストがしたそうで、ギタリストの本領発揮というか、ジャンゴ・ラインハルトばりのスウィングが凄い。私はサウンド・トラックも買ってしまった。アニメの中の舞台にはジョセフィン・ベーカーやグレン・グールドも登場する。
 作品をあまりに好きなばかりに、パンフレットについても、まあ、いいかという気持ちになったというのが正直なところ。お定まりのストーリーの中途半端については、これも例外でない。最後はこうなっているのだから——「果たして、おばあちゃんとブルーノは、最愛の孫・シャンピオンを救うことができるのだろうか?」観おわった観客にかえって失礼ではない?