ボルベール <帰郷>  VOLVER

2007年6月30日発行 発行=東宝出版(東宝ステラ編集)/ギャガコミュ ニケーション

 

 何年かを経ても、あのパンフレットは好き! と思い出す1冊が『ボルベール』のあの黒地に派手な花柄のパンフレットだ。もちろんペドロ・アルモドバル監督の強く美しい女たちを描いた映画のインパクトがあってこそだし、この花柄もあちらこちらで使われていることが後に分かるのだが、それでも、表紙が丸ごと花柄はめずらしい。そして、その花柄につづく中のページの色遣いが、ある意味、野暮ったい。その野暮ったさがいい。映画全体に占める赤、赤、赤の強烈さがパンフレットにも表現されている。

 よくある濃い地にのせた文字の読みにくさは、その分ちょっと活字を大きくしていることで、なんとかぎりぎり合格、と書きかけて、やっぱり監督のインタビューなどはぜひ読みたいものなのだから、デザイン優先でなく、すらっと読めるようにして、と言いたくなる。ゴージャスで素晴らしかったペネロペ・クルスのインタビューも。濃赤の上に黒い字でのせられて、筆者の佐藤友紀さん、文句を言ってもいいのではありませんか?

 イントロダクション、ストーリー、レビューの内容がたいてい内容紹介から始まって重複する場合が多いが、このパンフレットはその点があまり気にならず、それぞれの書き手の個性があっていい。

 タンゴの名曲「ボルベール」についてページをさいているのも嬉しい。歌詞の採録もありがたかったが、願わくば元のスペイン語もあるとよかった。とにかくペネロペがたっぷりとこの曲を歌いあげるシーンが最高だったのだから。そして誰でも考える、これは本当にペネロペの声?という疑問にパンフレットでしっかりと応えてくれているのは大拍手。ペネロペが歌っているとしか思えない自然さだったのだけれど、実際の声はエストレージャ・モレンテだった。そのインタビューも含めて録音の背景も紹介されていて、おかげで私はモレンテの最新アルバム「ムヘーレス」を買った。パンフレットならでは与えられる優れた情報。

 情報、そして、買った、といえば私は邦訳されて文庫本になっているアルモドバルの『ボルベール』もすぐに買って映画を思い出しながら読みふけった。つまり、このパンフレットでもストーリーは途中で終わっている。いい作品は終わりが分かっていても、なお観たいものだ。歌舞伎十八番も「寅さん」シリーズもしかり。パンフレットは、ああ、いい映画だったなあ、と思い出しながら何回も読ませるものであってほしい。最後はどうだっけ、というパンフレットが多くて、しっかりして、お願い!と言いたくなる。

 でもとにかくこのパンフレットはすぐに取り出せるところにある。