ペーパームーン  Paper Moon

発行日不明(1973年/パラマウント映画) 編集=松竹株式会社事業開発部

 

 40年ほど前の映画で、このパンフレットも映画をみてすぐ買ったわけではなく、最近になって懐かしさから入手したもの。映画は白黒だけれどもパンフレットのカバーになっている二つのシーンと見開きがカラーなのは、封切り当時に売られたときからそうだったのかどうか分からない。でも作り直すこともないだろうから、きっと初めからこうだったのだろう。

 わずか16ページのパンフレットだが、必要な情報は全部入っている。当時は甘いマスクの2枚目で人気のあったライアン・オニールがペテン師、共演しているのが実の娘のテータム・オニールで、そのテータム・オニールが素晴らしい演技をみせて、1973年のアカデミー賞助演女優賞を史上最年少の10歳で受賞した。この最年少記録はまだ破られていない。

 このパンフレットの優れているところは、ストーリーが2ページにわたってしっかりと全部書き込まれていること。ペテン師モーゼとその娘のふりをしたアディが、夫を亡くしたばかりの未亡人に聖書を売りつけたり高額札を出して過剰なお釣をもらったりする手口も含めて、たんなる粗筋でなく一部始終をたどることができるから、これを読めば映画のディテールを思い出すことができる。あるいはむしろもう一度ゆっくりと映画をみたくなる。昨今のちらしの延長のような「ストーリー」とはまったく違う。

 パンフレットの製作者は、ぜひこういう手抜きのないパンフレットを見て、ここに立ち戻ってもらいたい。だいたい「ネタバレ」という美しくない不愉快な言葉は、わりあい最近になってから、つまりコンピューターゲームが世に出てから急激に使われるようになったらしい。映画は、最後の最後まで知り尽くしてもなお、またみたくなるのが優れた作品なのだ。ましてやパンフレットでストーリーが追えないなんて何をかいわんや。

 ピーター・ボグダノビッチ監督が、映画製作時からさらに40年前のアメリカを描こうと1936年を設定して集めた町の風景や田舎の道、車、衣装が徹底していて、欲をいえば、そういうものがもっとパンフレットに記録されていてもよかった。

 音楽がすてきで、主題歌の It’s Only A Paper Moon はいまもジャズのスタンダードとして愛されているし(このサイトの「満月ほんやく文庫」に大橋美加さんがステージで歌うようご自分でつけられた訳がある)、Georgia On My Mind Sunnyside Upなど、しみじみと聴いてしまう曲ばかり。

 40年たっても読めるパンフレットとして、この素朴とさえいえるA4版の薄い『ペーパー・ムーン』を大切に取っておこうと思う。

 蛇足だけれども、その後のライアン親子がどうなっているか・・・二人ともいまも

役者は続けながらもアメリカ社会の暗い部分(薬物、銃、家庭の破局など)をすべて引きずっている。おとぎ話のような明るい『ペーパー・ムーン』に乗って生きてはこられなかったようだ。(2013・4)