懺悔  REPENTANCE(グルジア語では『モナニエバ』)

2008年12月20日発行 発行=岩波ホール

 

 これまで4回、パンフレットにはストーリーを最後まで載せてほしいと書いてきたが、すべてのパンフレットがちらしの延長ではない。
 いつでも完璧にストーリーを大切に記録しているパンフレットの代表といえば、もちろん岩波ホールの一貫した編集によるものがある。「解説」と物語」が過不足なく書かれているうえに、必ず採録シナリオがついている。これは凄い。これは素晴らしい。このパンフレットが欲しくて映画を観ることだってある。
 とはいえ、選ばれて上映される作品は、いずれをとっても心に深く残るものだ。ここではグルジアつながりで『懺悔』のパンフレットを改めて見てみよう。日本での公開は遅れたが、作品自体は『ここに幸あり』より20年ほど前、1984年に完成している。監督は巨匠テンギズ・アブラゼ。
 映画のストーリーはすべて架空の人物による架空の街での出来事だが、独裁者の顔かたちは私たちが「独裁者」として見知った人物とよく似ている。その独裁者が死に、死後に思いがけない形で告発が始まる。両親を粛正・殺害されたケテヴァンが、埋葬された遺体を夜中に掘り起こすという、女性の強さと愛の深さを体現する。物語はそのケテヴァンがケーキにつけるピンクの薔薇を絞り出しクリームで作っているところから始まり、ケテヴァンが十字架をつけたケーキを前にしているところで終わる・・・パンフレットを読んで、そのシーンをもう一度はっきりと目に浮かべることができる。
 このパンフレットでは高野悦子・岩波ホール総支配人がグルジア映画との関わりを書いていて、アブラゼ監督の作品総目録とともに、グルジア・ファンにとっては貴重な記録ともなっている。グルジアの歴史を主題とする3部作『祈り』『希望の樹』『懺悔』のうち、後の2本をみることができたのは岩波ホールのおかげだと思う。いつか『祈り』をぜひ観たいし、アブラゼ監督の『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』も上映してほしい。(『僕とおばあさん・・・』は邦訳されている。原作=ノダル・ドゥンバゼ、訳=児島康宏、未知谷刊)
 というわけで言うことなしのパンフレットではあるが、ないものねだりをすれば、いつも楽しさがない。この『懺悔』にしても真面目なだけの映画ではなく、むしろ終始シュールな展開に観客は振り回される。草原で男がピアノを弾いていたり、神父が生の魚をむしゃむしゃ食べたりする。その意味で、前にあげたイオセリアーニ監督の作品などは岩波ホール上映でなくてよかった、とちらっと思ったりもする。映画によっては、表紙だけでも楽しさいっぱいにしてくれると嬉しいと岩波ファンとしては考える。
 採録シナリオがあるだけでも、ほかのパンフレットとは存在感がまったく違うのだから、700円という値段は安過ぎ。表紙を楽しくして値段をあげてはどうでしょう。