ここに幸あり  Jardins en Automne

2007年12月1日発行 編集・発行=角川シネプレックス ビターズエンド


 こういうのが嬉しい、と人にも紹介したくなるのが、オタール・イオセリアーニ監督・脚本の『ここに幸あり』のA4版より一回り小型の横長のパンフレットだ。
 映画の舞台は現代のパリ。とつぜん失脚した大臣が、それと同時にお金も妻も愛人も失うが、前にも増して楽しく幸せな生活があった・・・というイオセリアーニ監督らしい作品にふさわしいパンフレットだ。
 全体の中心構成はイントロダクション、ストーリー、キャスト・プロフィール、スタッフ・プロフィール、インタビューと定番通りで、エッセイが3本。
 すべて感触のいい紙に読みやすい活字の組み。楽しい手書きのカットとシーンの切り抜きが散りばめられていて、そのバランスがとてもいい。エッセイでは立川志らくの「笑える絵画的映画」が独創性豊かだ。(どのパンフレットでもエッセイの三分の一くらいが映画のあら筋紹介になるのは編集者が原稿を依頼するときに注意してほしい。ひどいパンフレットでは5回も話の出だしばかり読まされる。)
 さて私がこだわるストーリーを最後まで、という希望はここではばっちりとかなえられている。もとより、それほど複雑な展開があるわけではない。それをもったいぶって半分しか書いておかないのが多くのパンフレットだが、ここではそんなことはない。気持ちよく読める所以だ。
 そして以上のほかに、こよなく嬉しいのが2ページにわたるストーリーボードの紹介。イオセリアーニ監督は1本の映画の撮影には、画面の構図作りに200枚ほどのストーリーボードを準備するといい、その8枚が実際の映画のシーンと並べて紹介されている。見てもよくは分からないけれど、「映画づくり」の一端に触れる気がするではないか。
 この映画ではフランスの名優ミシェル・ピコリが主人公の母親役(つまり女装して)でいい演技を見せる。一方で豹とかロバとか動物がたくさん出てくるのだが、監督の「動物のほうがミシェル・ピコリに演技をつけるより簡単だ」という言葉がプレス・ミーティングのページで紹介されていて、にんまり。来日したときのミーティングの一部紹介というのが残念。つまらない別の2ページをはずして、これをもっと読みたかった。
 つまらない2ページとは、コメントと題する著名人たちのおほめの言葉。いい言葉もあるが、パンフレットに載せるものではない。映画配給会社は一様にどういうコメントがあったか宣伝したがるけれど、どうしても印刷にして使うなら、ちらしとか広告の中だけにしてもらいたい。お金を出して買うパンフレットで10人も20人もの細切れの感想なんて読みたくない。
 それより監督の言葉をもっと読みたかった!だってイオセリアーニ監督は本当に面白い人なのだ。記者会見に出たことがあるが、そのときは日本人のお辞儀がきらいだ、もっとハグをしようよ、と盛んに繰り返していた。
 この映画はフランスが舞台だが、監督が生まれたグルジアの雰囲気があちこちにある。おそらく意図的なものだと思うし、主人公が大切にしている1枚の絵は絶対にグルジアの画家によるものだと思うのだけれど、パンフレットでは明かされていなかった。
 原題の訳は「秋の庭」。