アルゴ  ARGO

2012年10月26日発行 発行=松竹株式会社

 

 縦18センチ×横29センチの小型のパンフレットは、左綴じ12枚(24ページ)の紙の右端が次々と前の紙より6ミリほど横に長くなるように重ねられ、そこに白黒というか灰色の濃淡で写真が刷り込まれていて、指を滑らせるとページが流れるさまがストーリーの緊迫感をそのまま表している。しかも表紙の写真の一部が次のページにもつながっていて「フリップブック」のようでもある。中に何枚かのカラー写真もあるが、押さえた色づかいが、この事実を元にしたアメリカ映画の印象をよく伝え、とても雰囲気のあるパンフレットだ。

 ただし文字はまったく読みにくい。よくあるように黒地や灰色地に白抜き文字のページが多い。ため息をつきつつも川本三郎評「異国に捕われた同胞の奪還の物語」だけは何がなんでも一字一句、読む。読んで裏切られた思いをしたことがない書き手だから。「米国側の視点で作られている」映画で、「かつての上質のアクション映画」を思い出すことに共感をもちつつ、映画のディテールや歴史についてさまざまな情報も与えてもらう。

 話は1979年11月。在イラン米国大使館をイラン過激派が占拠した中で、6人の大使館員が近くのカナダ大使私邸に隠れる。その6人をなんとか救出して帰国させようとするのがCIAの「アルゴ作戦」で、「アルゴ」とは架空のSF映画の題名。その映画を撮影するカナダ人スタッフとして6人をイランから出国させるのだ。

 監督と主演がベン・アフレック。

 時代考証(といっても18年前に過ぎないが、それだけに)がきめ細かにされていて、服装や電話や車の型など、すでに懐かしいものが登場する。パンフレットにその辺りのことがもっと記録されていると嬉しかった。また舞台となるテヘランでのシーンとしては、ごく普通の雑踏の写真がわずかに1枚。存在感が光り、緊張感を盛り上げてもくれた大使館のイラン人家政婦にいたっては名前も写真もまったく記載されていない。大使館に押し寄せる群衆とか、カーペット工場の子どもたちとか、スチール写真で見たかった。もしかして差し障りがあるのか、それとも事実と創作との狭間に隠れてしまったのか。

 この史実の殊勲者は本当はカナダ大使で、そのことはパンフレットの中でも触れられているし、インターネットで見ると、映画の試写会に実際の大使夫妻(いまは引退)を招待している。またイランを悪者扱いにして米国が被害者のような立場をとっていないのも配慮が行き届いている映画で、気持ちよく楽しめるのは、そのような姿勢があるからだろう。

 だから一層、パンフレットは、映画館のカウンターの上にひっそりと置かれるだけでなく書店でも、あるいは映画の公開が終わってからも売られるものであってほしい。いつもながらSTORYを「果たして、人質6人とトニーの運命は?」と終わらせるのでなく、ほかのページでは奪還成功を散々述べていて、しかもはらはらどきどき連続の非常によく出来た映画であることが分かっているのだから、きちんと最後まで記録するべき。こう書き出してみると、この終わり方って、「月光仮面」の紙芝居の明日までのお楽しみ、とまったく同じで笑えてしまう。

 繰り返しになるが、パンフレットの形やサイズとしては、映画の緊張感と娯楽性の両方を伝えるものとして「最高」と言いたかっただけに、印刷が残念。

(2012・11)