◉インドのお弁当2題

スタンリーのお弁当箱  Stanley Ka Dabba

2013年6月29日発行 発行・編集:株式会社アンプラグド 定価600円

 子どもとお弁当が主役、とあれば楽しい映画を想像する。登場する男の子たちが皆かわいくて、溌剌としていて、こよなく賢そうで、元気をもらう作品なのだが、一方で「インドの貧困と児童労働問題」の解決への問題提起でもあると知って、奥行きの深さに、はっとする。ムンバイのホーリー・ファミリー校という実在する男子校で土曜日にワークショップを重ね、その実写をもとに製作した映画で、子どもたちの自然な表情に納得するが、ドキュメンタリー映画ではない。実によくできたストーリー運びのある長編映画で、まったく新たなインド映画の誕生を知る。

 パンフレットは20ページ。アモール・グプテ監督のインタビューもあり、製作の意図や撮影の様子も語られているが、そこに作品中の国語教師を演じているのが監督自身だったとある。教師の配役表を見るとたしかに監督の名があるが、インタビューのページに監督の顔写真がないので、はっきりと結びつかない。インドの映画界に詳しくない日本の観客のためには、そのあたりの細やかさがパンフレットにほしいところ。

 貧しくて学校にお弁当を持ってこられないスタンリーに気づいたクラスメートたちが、自分たちのお弁当をすこしずつ分けて食べようと申し出る。それを知った教師が、(自分がおいしいお弁当を羨ましく思うがために)見とがめてスタンリーを学校から追い出す。日本だったら、もしかするといじめにつながるかも知れない状況が、逆の展開をしていくところが面白いし、前編を通じて明るさにあふれているのがパンフレットからも感じられる。子どもたちが持ってくる様々な形のお弁当箱もたのしい。

 スタンリーが学校を休んで飲食店で働いていることを取り上げ、児童労働禁止法についても1ページあててあり、そういう面での配慮のあるパンフレットだ。インドの家庭料理も紹介されている。主役スタンリーをつとめた監督の実の息子パルソーへのインタビューもいい。

 インドについては知らないことばかり。だから4段重ねのお弁当箱とか制服、学校の様子、などなどすべてが目新しい。パンフレットはそういうディテールを伝えてくれるものとしても貴重だ。

めぐり逢わせのお弁当  The Lunchbox

2014年8月9日発行 発行・編集:ロングライド 定価700円

 インドのお弁当配達の事情がよくわかる映画であり、パンフレットである。お弁当配達人をダッパーワーラーといい、家庭からオフィスへ、そして空になったお弁当をオフィスから家へと運ぶことを仕事としている人達がムンバイだけで約5千人いるという。たいていが5段重ねの金属製のお弁当箱を色とりどりの袋にいれたもので、カレー、野菜の炒め煮、チャパティなど、夫が出勤してから妻が手作りする豊かな昼食が用意されている。

 誤って配達される確率はきわめて低いといわれるお弁当が、なぜか若い主婦イラから夫に届かず、中年の孤独な保険会社の会計係サージャンに受け取られることになる。そして始まるお弁当に添えた手紙の交換。堅牢なシステムによるお弁当配達は、いったん間違えたとなると、それをもどすことは容易ではない。誰もが絶対に間違えないと信じているのだから。だからこそ二人の手紙交換も続いていく。

 会計係の後任とか、イラの部屋の上の階に住んでいるおばさんとか、周辺の人達も魅力がある。なにしろおばさんは、いつも大声で話しかけてくるだけで、一度も姿を現さない。それでも料理の微妙な味加減はスパイスの使い方へのおばさんのちょっとしたアドヴァイスで決まるのだ。

 インドの日常に触れる映画は多くなく、リテーシュ・バトラ監督は、自身が生まれ育ったムンバイを舞台に、実にあたたかな作品をつくってくれた。

 パンフレットはそのすべてをよく伝えていて、映画の余韻をもたせながら、知識をも与えてくれる。監督のインタビューもいい。サージャン役をどこかでみたことがある、誰に似ているのだろうと思っていたら、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』で成人した主人公だった。そういうことが分かるのもパンフレットならでは。

 読みやすいパンフレットだが、いつもながらストーリーは最後までほしい。そうしなければ記録として完璧ではないし、2ページもつかって16人の日本の人たちのコメントをひとことずつ載せているのは、ちらしでやるべき展開。(2014・8)