ハーブ&ドロシー  HERB & DOROTHY

2010年11月3日発行 発行=ファイン・ライン・メディア・ジャパン

 

 いまも、おとぎ話を現実にする方法はあり、こんな生き方もできるのだと示してくれた現代アートコレクター・ヴォーゲル夫妻を物語にしたドキュメンタリー映画。隅から隅まで愛おしくなるカットを流れるように積み重ねた映画のパンフレットは・・・表紙が濃いメタリック・ピンク。中で薄いサーモン・ピンクを文字見出しなどに使っているのと合ってはいるけれど、この表紙は「違う」という印象だ。

 1962年にニューヨークで結婚した二人は、やがて図書館司書のドロシーの収入で生活しつつ、郵便局で郵便物の仕分けを仕事とするハーブの給料をすべて作品の購入にあて、45年間で4000点のコレクションを築いた。そのふたりの若い時の写真も年とってからの写真も、こよなく美しく温かで、それをゆっくりと見られるのはパンフレットあってこそ。妻のドロシーのほうがちょっと背が高く、ふたりのシルエットを随所でマークとして使っているのが楽しい。

 佐々木芽生監督の初の監督・プロデュース作品で、一問一答で製作の背景を知ることができたのはよかった。夫妻が住むマンハッタンの1LDKのアパートメントにすべてのコレクションがぎっちりと詰まっているというのも驚きだったが、それを描いた監督のスケッチが具体的なイメージを持たせてくれる。

 一体どうしてこんな素敵なことが可能だったのか、パンフレットのページをめくりながら思い返すのも豊かな時間となる。全体が縦書きで、どうしても部分的に横書きが入ってくるので、それなら全部、横書きでよかったのではないかと思う。そしてハーブとドロシーの言葉の一部や、ふたりから日本の観客に向けてのメッセージは英語でも載せてくれるとよかった。縦書きのせいか、全体が日本調で、ニューヨークの二人に出会った感じが薄いのだ。

 それにしても佐々木監督はすばらしい。いま夫婦のコレクションが50点ずつ全米50州の美術館に寄付された経過を追って続編を制作中とのニュースを読んだ。ハーブは89歳で今年(2012年)夏に亡くなったという。

 続編が公開されたら真っ先に観にいき、パンフレットを買おう。今度は表紙をもっと違う雰囲気にしてほしいのと、もうひとつ。いたって個人的には、コピーも好きではない。You don’t have to be a Rockefeller to collect art. (ロックフェラーじゃなくたってアートコレクターになれる!)というもの。コレクターになりたかったわけではないとハーブとドロシーは幾度も言っているのに。

(2012・10)