ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物         HERB & DOROTHY 50×50

2103年3月30日発行 発行=ファイン・ライン・メディア・ジャパン

 

 2010年に全米で、また日本で、公開されたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』の続編。現代アートのコレクター・ヴォーゲル夫妻のその後の物語で、5千点近いコレクションからそれぞれ50作品を全米50州の美術館に寄贈するプロジェクトを追ったものだ。

 パンフレットに載せられた佐々木芽生監督の「メッセージ」により、この映画の成り立ちがとてもよく分かる。寄贈先の美術館を訪ね歩き、映画の撮影がほぼ終わって編集段階に入った終了間近の2012年7月、夫のハーブが89歳で亡くなった。それから改めて追加撮影のうえ完成させた映画とのこと。

 映画は前編にひきつづき、引込まれるように観おわったのだが、パンフレットについては少し書いておきたい。

 まず表紙は前回のショッキング・メタリック・ピンクに合わせて、今度はショッキング・メタリック・ブルー。こういうイメージで映画が表されるのは、あまり納得できない。しかも表紙に英語で、開いたその裏に日本語で「ロックフェラーじゃなくたって アートコレクターになれる!」とあるのは、前回と同じ。そういうことではないのにと、ましてもヴォーゲル夫妻ファンは思う。コレクターになりたい、とかアートをたくさん自分の物にしたい、とかいう気持ちはふたりにはまったくなかったからこその成果だったはず。

 そのことは個人的にも親しく接していた監督が一番よく分かるはずなのにと思う一方、もしかすると「アートとは何だろう?」という自問への答えがこれだったのだろうか? 「(映画の物語が)下手をすると、単なる美術館カタログになりかねません」という言葉に、少し驚く。恐れずにいえば、ヴォーゲル夫妻にとって、もしかするとある種の「美術館カタログ」をつくることが夢だったかもしれないのに。作品を手放した後、ドロシーが嬉々としてコンピューター画面に美術館収蔵となった作品を呼び出しては写真になっているかどうかチェックしているのをみれば、この映画パンフレットにも、もっとアーティストの名前や作品の写真を入れてほしかったと思わずにはいられない。映画のパンフレットをつくる人たちは、優れた美術館カタログが運ぶ夢や記憶を共にしてほしい。(一方、美術館カタログをつくる人たちは、映画のパンフレットが伝える胸のときめきや記録を共にしてほしい。)

 この映画に感動するのは、夫妻の生き方を見事に描いているからであり、集められた作品によるものでないことは分かる。でも夫妻のアートをみる目の確かさも間違いなくコレクションの質をゆるぎないものとしたのであるから、もっとその面を出してくれてもよかった。

 また今回のパンフレットは前回よりはるかに情報量は少なく、読むべきところがあまりない。夫妻が手を取り合っている、前回と同じ美しい写真が使われているが、背景は明らかに実際とは違い、合成してはめこんだものだ。それならそれで、どこかの美術館の壁面なのか展示の一部なのか、データを入れるべき。ドキュメンタリー映画のパンフレットなのだから。中央の1ページをまるまる使ってほんの数行載っているLiLiCo とピーター・バラカンの二人の言葉も、場所が違うと思う。すてきな二人なのに、こんなふうに扱われては、かえってつまらない。

 

 でも、でも、最初に 「Herbert Vogel 19222012」 として、ハーブが若き日にドロシーを描いたと思われる1枚の絵があるのは最高。映画の紹介では、ラストシーンとして、この素晴らしいシーンを伏せているので、書いてはいけないことかもしれないが、いつも映画のストーリーを完全紹介することを切望している身としては、むしろ映画をみる人に見逃して欲しくないところだと喚起しておきたい。

 そして最後に、この映画を生み出してくれた佐々木芽生監督には心から感謝を捧げたい。(2013・4)