哀愁  Waterloo Bridge

若草物語  Little Women

 発行日不明 発行=国際出版社

(映画の日本公開は1949年3月、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー配給)

 

 この映画をいつ観たのか、正確にはわからない。封切りの1949年には小学生だったけれど、小学5年生にして吉祥寺の武蔵野第一小学校で「映画鑑賞部」部長(部員一人)だったので、観ていておかしくはない。
 ただ、このパンフレットは封切り当時のものではなく、中の解説によると「この映画が公開されたのは今から五年前の昭和二十四年の三月」とあるので、私自身もみたのは1954年のことだった可能性が大きい。いずれにしても50年以上昔に実際に映画を観て買って今も大切に持っているパンフレットなのだ。
 当時は封切りといっても、たいてい2本同時上映だった。地元・吉祥寺の映画館で観たと思うのだけれど、忘れられない映画であったと同時に、これこそ、こうあってほしいと願う形のパンフレットだ。今でも隅から隅まで読んで、映画のシーンを思い浮かべられる。
 B5版の粗末な紙のパンフレットは、表紙だけカラーで、あとは白黒で8ページ、つまり4枚。そんな驚くほどの薄さなのに、内容は濃い。
 『哀愁』は裏表紙に写真と英文の配役、1ページに解説、日本語のスタッフとキャスト、マーヴィン・ルロイ監督の紹介、2、3ページの見開きで物語、主役のロバート・テイラーとヴィヴィアン・リーの紹介、そして田中絹代のエッセイ「『哀愁』を見て」。4ページにUというイニシャルしかない筆者による随想録(1200字ほどで時代背景なども書き込まれた優れもの)という充実ぶり。
 『若草物語』はやはり4ページを使って、解説、スタッフとキャスト、物語、スタアMEMOとしてジューン・アリスン、エリザベス・テイラー、マーガレット・オブライエン、ジャネット・リー、ピーター・ロウフォードの5人の紹介と作中の4人姉妹の紹介、田村幸彦「鑑賞の栞」、そしてまた長文の「オルコット女史と原作”LITTLE WOMEN”」と題する無記名の長文の随想(同じルロイ監督なので、紹介はない)。
 いかに充実していて、知りたいことがぎっしりと入っているか分かると思う。しかも、「物語」は両方ともディテールまで描きながら、きちんと最後まで入っている。だからいま読むと、映画のシーンを思い描きながら1冊の本を読んだ気になる。というより、とくに『哀愁』は、その語り口が映画にそって話の筋だけでなく情景描写にも長けているので感情移入してしまう。
 『哀愁』でヴィヴィアン・リーは青年大尉を愛しつづけた女性マイラを演じているが、それ以前の1939年に、アメリカで公開された『風とともに去りぬ』のスカーレット役でアカデミー賞主演女優賞を得ている。『哀愁』での演技に田中絹代はパンフレットでこう書いている。
「ヴィヴィアン・リーという女優さんは……何という清純さでしょう……。しかし何よりもわたくしの感心しましたのは、街の女に身を堕してからの演技でございました。一見してそうなったとわかりながら、なお心の底には純情を失っていない、その二重的な表現、それが巧みに一つの顔、からだで現わされているのには頭がさがりました」。日本の映画史に燦然と輝く大女優の率直な言葉は貴重。最近のパンフレットに載せられる数行の言いっぱなしの感想など足元にも及ばない。
 ところでこの時代のパンフレットは今見ると、とにかく誤植や英語のミスプリントが多い。そして不思議なことに発行年が記載されていず、そのことは美術展のカタログなどにも共通する。それでも読むのに不自由はしない。正しいだけよりも、内容の量が多いことのほうが嬉しい。「総天然色」とか「美麗パンフレット」など、古色蒼然とした懐かしい言葉もある。
 最近作られているパンフレットの多くは、50年後に読まれるとき、何を伝えられるだろう。