トーク・トゥ・ハー  talk to her

2003年6月28日発行 発行=ギャガ・コミュニケーションズ


 ずいぶん前のパンフレットだが、スペインのペドロ・アルモドバル監督が脚本もろとも手がけた忘れられない映画なので、『ボルベール』のパンフレットに誘われて、また開いてみる。
 つまり好きな映画のパンフレットは、こうして10年たってからでも手に取る。だから繰り返して言いたい。「ストーリー」は思わせぶりに終わらせず、しっかり書いておいてほしい。それがあってこそ、映画を観たものは、後から幾度もさまざまなディテールを思い起こすことができるのだ。あの後は、どうだったかな、という満たされない気持ちばかりが残らないよう手を差し伸べてくれるパンフレットであってほしい。このパンフレットも中途半端。
 もっとも『トーク・トゥ・ハー』は、ひとつひとつのシーンの強烈な美しさ、官能的な優しさが心にしみ込む映画だったから、話だけを改めて追いたいとは思わないのがせめてもの慰めか。
 このパンフレットもアルモドバル監督カラーなのかどうか知らないが、赤と黒がページの地色に使われ、そこに真っ青のページがはさまっていて、強烈な印象を打ち出しているけれど・・・疲れる。表紙もその3色の組み合わせなのは、これでスペインを表現しようとしている? 映画はこよなく知的な愛にあふれているのに、どぎつい色で印象を留めようとするデザイナーの気がしれない。その3色に相も変わらず白抜きで文字が載っている・・・読めない。
 でも読みたいから、辛いなあ、と目をこすりながら文字を拾うと、いいことが書いてある。ピナ・バウシュの「カフェ・ミュラー」の衝撃的な使われかた、カエターノ・ヴェローゼが「ククルクク・パロマ」を歌う胸迫るライブ・シーンもありありと思い出す。分量的には物足りないながら、この読みにくさではこれが限界かとも思う。折角パンフレットを作るのに、もったいない。
 だいたい、24ページしかないのに、というか、ないからか、厚手の大判の紙を綴じてあるだけのパンフレット。書かれていることの深さを大切にしていない扱い方だ。それで800円。
 深く昏睡したままの二人の女性それぞれに付き添う男性を通して拒絶と許容を痛いほど肌に感じた、この映画、もう一度観たい。パンフレットでは十分に思い出せない。
 眠り続けるバレリーナを演じたレオノール・ワトリングへのインタビューだけが、読みやすい印刷になっているのだが、インタビュワーは和久本みさ子。私の高校時代の友人で、2年前に急逝した。