麦の穂をゆらす風 The Wind that Shakes the Barley

2006年11月18日発行 発行=シネカノン


 ⑨につづいてケン・ローチ監督の作品。大判、32ページのしっかりとした作りのパンフレットで、表紙はアイルランドの色、緑一色。地図と英語の映画タイトルだけが押し版で表されているシンプルさがとてもいい。全体的に写真の選び方と配置が見事で、全体の雰囲気、記憶にとどめたい細部、撮影の様子が無駄のないバランスで紹介されている。
 ほとんど冒頭に映画のタイトルとなっている「麦の穂をゆらす風」の由来と歌詞が英語と訳語の両方でフルに解説とともに載っていて、映画を観たものはそれだけでこのパンフレットを手にしたことを後悔しないだろう。

 Noon, night and morning early / With aching heart when e’er I hear / The
wind that shakes the barley

 昼も夜も夜明け前も/きまって心が痛む/麦の穂をゆらすあの風の音を聞くと

 (茂木 健訳詞から)

 

 1920年のアイルランド南部の町コーク。アイルランド独自の言葉ゲール語を話すことすら禁じるイギリスの厳しい支配からの独立を求める人たちの叫びをみなぎらせる全編の空気を、パンフレットの「解説」がよく捉え、薄い緑色の見開きページにシルエットで闘う男たちの歩く姿を背景においているのも美しい。年表や用語の解説も行き届いていて、資料としてもすぐれている。
 おそらく書き下ろしと思われる、そういった資料的な説明がいいだけに、惜しむらくは「映画の背景――アイルランド革命」の訳があまりに直訳で、日本語として理解しにくい。原文はコーク大学の歴史家が書いたもので、事情に詳しくない日本人に名詞の羅列で心に響かせることはできない。
 脚本は『スイート・シクスティーン』と同じポール・ラヴァティ。なおのこと、ストーリーはしっかりと最後の、あの心をうずかせる瞬間まで書き留めておいてほしかった。
 主演はキリアン・マーフィーで、映画の舞台となったコークで生まれたのだという。ニール・ジョーダン監督の『プルートで朝食を』(このパンフレットについても書きたい)で素敵な女装をした、あのキリアンが凛々しい姿をみせ、いいショットがパンフレットで見られる。
 ケン・ローチ監督のファンとして、エールをこめて。