クロワッサンで朝食を Une Estonienne a Paris/A Lady in Paris
2012年発行 発行・編集:セテラ・インターナショナル 定価:600円
エストニアのイルマル・ラーグ監督(脚本も)の初の劇場用長編映画だそうで、自身の母親をモデルにして、パリで出会う二人のエストニアの女性を描いている。その一人がジャンヌ・モロー演じる、年輩の女性。富豪の夫を亡くしてパリの高級アパルトマンに住んでいる。このジャンヌ・モローをみたくて映画館に駆けつける人が多いのではないだろうか。
その意味でもジャンヌ・モロー(この人のことはフルネームでしか呼べない)
へのインタビューにたっぷりと4ページをさいているのが嬉しい。「映画について」と「自身について」、それぞれ実に深いことばを引き出していて、ページの組み立ても訳文も読みやすく、このパンフレットはファンにとって必携になるかもしれない。
「この自由な人物像は、あなた自身がたどられてきた人生と響き合っている」のではないかという質問に対して、「そうは思いません・・・私にとっては、もうすでに通り過ぎてしまった過程なのです」と語り、そこから展開される自身への洞察と演技の意味のなんと豊かなこと!あらためてジャンヌ・モローのファンになってしまったというか、その度合いを強めた。パンフレットあってこそのご褒美のようなものだ。
写真の組み合わせもいい、心地よいパンフレットだが表紙が寂しい。印象が薄くて、もう少し深みのあるデザインにしてほしかった。
エッセイは3本。よくあることで、どうしてもかなりの部分を映画のストーリーをたどり、紹介することになるので、その部分がだぶり、読者としてはつまらない。でもさすが、川本三郎氏の「異国での新しい始まり」は個性的な視点をきっちりと出してくれて、しかもいつもながらパンフレットではお座なり
で中途半端なままの「ストーリー」を最後まで追ってくれている。映画を一層楽しく思い返させてくれるエッセイだ。重要な役割を演じている男性を、最初は老婦人の息子かと思ってみていると、なんと恋人だったと分かるくだりなど、そうそう、と相づちを打ちたくなる。(演じるパトリック・ピノーがジャン・レノにそっくりというのも、そう思ってみていたの、と言いたい。)
エッセイはこれ1本で十分だった。映画の日本語題名は、いただけないものだと思うし、その題名のために加えたクロワッサンにまつわるエッセイは、申し訳ないけれどイラストともども、いらない。それよりも、エストニアという国についての説明がもう少しほしいところだった。(2013・9)