スィート・シクスティーン Sweet Sixteen

2002年12月28日発行 発行=シネカノン

 

 めずらしく右綴じのA4版より少し小さな縦長のパンフレットで、文字もすべて縦書き。ふた昔前の大学の文化祭パンフレットのような素朴で真摯な造りが映画の題にもケン・ローチ監督が描く世界ともよく合っている。監督としては『ケス』以来の少年が主人公の作品だそうで、スイートというよりも、ひりひりする痛みをむき出しに空気にさらしたような世界が現れる。
 スコットランドの田舎町を舞台として、服役中の母親をなんとかまともな環境で取り戻したいと願う15歳の主人公リアムの2ヶ月の物語だ。
 監督ケン・ローチと脚本家ポール・ラヴァティそれぞれへのインタヴュー(大川五月による)がいい。質問がポイントをついていて、一字一句読んでしまうインタヴューはそうはない。深刻な題材と娯楽性とのバランスについて、「バランスというより事実。リアムのような少年と一日一緒にいたら、きっと半分は笑っている。彼らの発言や行動は面白いから微笑まないではいられず、それをストーリーから抜き取ることはできない」という言葉を引き出したのはすばらしい。
 同様にスタッフとキャストのプロフィールも、本人と映画の中での役割とがしっかりと結びついて語られていて、このパンフレット全体の編集者のセンスのよさが感じられる。だから、ストーリーもしっかりと最後まで紹介されているし、大場正明の評論も深い。ただ、山口哲一の音楽についてのページは、ケン・ローチ・コレクション/サウンドトラック作品集について書かれたもので、そうであっても、もう少しこの作品に使われた音楽について具体的に加筆してほしかった。少なくとも音楽はこよなくスイートだったから。
 最後のシーンで、母親の恋人をナイフで刺してしまい、うつろな表情で砂浜を歩くリアムの携帯がなる。ただ一人まともな登場人物として描かれている17歳でシングルマザーの姉シャンテルからだ。「今日は16歳の誕生日ね」。そこの、ぽっと小さな灯りがともるような場面について、幾つかの箇所で触れられているのも嬉しい。ラストシーンは隠されているのが多いから。
 スコットランド訛りが強くて英語の字幕をつけなくてはイギリス人に理解できないという騒ぎのあった映画、日本語字幕で見られてよかった。28ページのパンフレットが10年たっても読み応えがある。1ページだけ、やはり許せない緑地に赤の活字というまったく読めないページがあるが、コメントだから飾りと考えてあきらめよう。でもせっかく書いた方、ごめんなさい。ピーター・バラカンさん、あなたのコメントは読みたかったのに、まったく読めません。