ヒロシマナガサキ  White Light/Black Rain

2007年7月28日発行 発行所:岩波ホール 定価:700円

 

 今年(2013年)、再上映されたので、パンフレットも改めて見返した。

 スティーヴン・オカザキ監督が25年という年月をかけて完成させたドキュメンタリー映画で、岩波ホールでの封切映画すべてのパンフレットと同じように、シナリオが見事に採録されているのがありがたい。

 また巻頭のエキプ随想「名画は落ち着きを醸しだす」は国際法学者・最上敏樹さんによるもので、6年を経て読み直したが、この映画が《落ち着き》と《静けさ》に溢れているという指摘は今もすとんと胸におちる。つづく佐藤忠男、林京子さんらの文章によるページも幾度も読み返していいものだ。とくにデザイナー・栄久庵憲司さんの「率直に言って見たくないものを見てしまった感あり」という言葉で始まる一文は、広島で被爆して父上と妹さんを失った本人の痛切な響きを伝える。「妹の死ぬ前のユーモラス性を留めておきたかった。決して悲惨な表情を重ねることはできない」という言葉は、死を乗り越えて生きていく者、つまり私たちすべての心の一面を語っている。

 このように優れたドキュメンタリー映画が作られたことを感謝したい。決して風化させずに伝えていきたいものだ。

 パンフレットとして、ひとつだけ注文があるのは、人の写真の扱い方。おそらく証言者と思われる人たちの写真がキャプションなしで使われていて、紛らわしい。例えば林京子さんの一文の、普通であれば筆者の写真があってもおかしくないところに男性の写真がある。ここは男性だから、筆者ではないことが分かるが、もう少し配慮がほしいところだった。

 この映画の再上映は、リンダ・ホーグランド監督の同じくドキュメンタリー映画『ひろしま 石内 都・遺されたものたち』Things Left Behind の上映に伴うものだった。石内都さんが、被爆して亡くなった人たちの服を中心に撮った写真展は、新たな衝撃を観るものの胸に残したが、この映画はその写真展がカナダで開かれたときの模様を中心としている。パンフレットはめずらしく縦書き。