シュガーマン 奇跡に愛された男 Searching For Sugar Man

発行日不明 発行=角川映画 映画製作=2012年/スウェーデン・イギリス

 

 これが五百円のパンフレット? CDと同じ形・サイズのカバーに入れただけの白黒6ページの中身で、読めるのは、マリク・ベンジェルール監督インタビューだけ。あとは、ほかの部分(たとえばスタッフ・プロフィール)とだぶった、ちらしよりも中途半端な情報。パンフレットを読んで知ることがほかになにもない。もちろんストーリーもまったく中途半端。というか、たんに映画の出だしが載っているだけ。よく思うことだが、パンフレットをちらしと思い違いしているとしか考えられない。感激的な終盤について書いてない「ストーリー」なんて意味がないのに。しかもこれは、結末が分かっては興ざめのミステリーではなく、ドキュメンタリー映画なのだ。

 白黒の表紙もCDを模したもので、スクラッチがたくさん入り、AVOIDと小さな紙が貼られている写真は、映画をみた者には放送されないように傷つけられたものだと分かる。このパンフレットを作った人はきっと、この形を作るだけで楽しんだに違いない。パンフレットを買う観客も楽しませてほしい。

 映画が感動的だっただけに、とても残念。

 1960年代後半にアメリカのデトロイトで2枚のアルバムを出したシクスト・ロドリゲスというシンガーソングライターがいた。そのまま埋もれてしまったと思われていたが、彼の歌は、本人も知らないまま南アフリカで大ヒットをしていた。50年の歳月を経て、マリク・ベンジェルール監督が、その経過をたどり、熱狂的なファンを通じて本人を、ついに探し出す。ロドリゲスは健在だった。日々、建築現場などでまじめに激しい肉体労働にたずさわっていた。でも出勤はスーツ姿で、家族を大切にし、娘たちが幼いときは美術館や図書館に連れていった父親だった。再発見されてすぐ、南アフリカ・ケープタウンで開かれたコンサートには数万人がつめかけたが、ロドリゲスは興奮することなどなく、まるで昨日までそうしていたかのように、穏やかにステージにあがっていった。このシーンにはとりはだがたつ。これは、いま、の話なのだ。思わせぶりに映画の結末を隠す理由などまったくない。映画の終わりは今日につながっているのだから。

  これを書いているのは5月4日(2013年)で、10日前の4月23日にサンフランシスコのウォーフィールド・シアターで行われたコンサート・レビュウをウェブで読める。ギターを抱えてステージに現れた70歳のロドリゲスは、いつものように革のパンツにブーツ、黒いシャツと上着、黒い帽子にサングラスで、温かいユーモアをちりばめたトークでも満場を魅了したという。

  私はきっと、もう一度映画を観にいく。最後まで知った安心感をもって背景を見つめ、歌を聞き、せりふに耳をそばだてよう。パンフレットには、その助けになってほしかった。幾度でもページを開いて、感動をよみがえらせる場としてパンフレットをみたい。日本の多分ほとんどの観客にとって、外国の映画は字幕を見ることになるので、なかなか画面の全体にまで目が行き届かない。ディテールにまで気がまわせないからこそ、さまざまな情報が欲しい。とりわけこの映画では、字幕が画面下に出るのと同時に、右側に縦書きで話している人物が誰か説明が出る。感動的なシーンについても、人の表情などに目をこらす余裕がないのだ。なまじカラー写真など使っていないところは気持ちいいのに、本当に残念なパンフレット。

 

 ところでパンフレットの中で唯一読ませる監督へのインタビューだが・・・「本作を作る中で何を学びましたか?」という質問はなんなのだろう。35歳という若い監督だからだろうか。その答えは十分に知るに値するもので、答えに合わせて用意した日本語での問いだったのかも知れない。多くのパンフレットの中で、相手が有名であれば先生と呼び、若ければ学生のように扱う。インタビュワーはもっと映画から学んでもらいたい。